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『吃音の世界』(菊池良和/光文社新書)読書記録

「そうだ、吃音についてもうちょっと知ろう」読書、3冊目。

これまでの読書記録はこちらから。

今回ご紹介する3冊目はこちらです。

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吃音関連の書籍をいくつか読んでみよう、と思い立って検索したとき、複数の書籍の著者に名前をお見かけしたのが、菊池良和さん。ご自身も吃音の当事者であり、九州大学などで吃音外来を行っている"吃音ドクター”なのだそう。

いろいろな視点で書かれた複数の書籍を読みたかったので、ぜひ当事者かつ医師の視点も交えたものを拝読したいと思い、こちらの『吃音の世界』と、指導者向けの『もう迷わない! ことばの教室の吃音指導 今すぐ使えるワークシート付き』を購入した。


まずは前者『吃音の世界』を読了。

本書について、いち吃音の子を持つ親として感想をひとことに集約するなら、「め……、めちゃめちゃ参考になるー!!」である。

それもそのはず、新書というコンパクトでスマートな1冊のなかに、第1章では菊池氏ご自身の吃音体験、第2章では吃音の発症の原因について、第3章では吃音治療の歴史と現在、第4章では吃音外来の具体的な事例やエピソード(しかも年齢別のケース)、第5章として吃音と社会のこれから、と、非常に網羅的に、さまざまな観点から吃音について詳しくまとめてくださっているからだ。

吃音外来で日々いろいろな当事者の方と接しているからこそ、内容も語り方も、一般的に誤解されやすい部分に重点を置いていたり、わかりやすい表現にひらいてくれたりと、個人的に「吃音の全体像が知りたい」ニーズにぴったりで、とても学びになった。

ページをめくりながら、何度も「おぉ…参考になるー!」とひとりごとを言ったことか。付箋を貼る手が止まらなかった。


印象に残ったことはいろいろとあるのだが、ここでは自分の備忘録も兼ね、そのなかのいくつかを書き留めておきたい。

まず1つは、第2章の吃音の発症の原因について。

それまでに読んだ書籍で、吃音の原因についていろいろな"誤解”があることはすでに認識していた。ただ私は本書を読んではじめて、それがある時代(しかも近代)には「新聞記事として公に広められるくらい」信憑性のあることとして、世に出回っていたのか……!と衝撃を受けた。

また、一九四〇年一二月二七日の朝日新聞には、
<どもりは伝染病 早期矯正が大切です>という見出しの記事があります。そこでは吃音の原因についてこう書かれています。
「ドモリの原因は幼時にかかった疾患、百日咳や胃腸病がもとでおこることもありますが、大体は身近なところにいるドモリからうつることが多いのです。父親がドモリだったり、友達にドモリがいると、真似をしなくとも黙っていても、ドモリがうつることがあるのです。しかし、決して先天性なものではありませんから、早いうちに根治する必要があります」
こうした記事から、当時は「吃音の原因=真似」というのが最も広く信じられていた考えであったことが見て取れます。

『吃音の世界』(菊池良和/光文社新書)以下同 p63

これを読んで、そうか、誤解は誤解でも、当時はそのくらい当然の事実として紹介されていたのか、根も葉もないデマかと思ったら、思いっきり根はあったし、しかも思ったより根深い……!と認識を新たにした。

その後も大脳半球優位説と左利き矯正説、診断起因説など、時代とともにさまざま、原因ととらえられるものを移り変わっていったとのこと。

診断起因説に関しては、以前、私の体験を書いたこちらの記事で、まさにひと昔前の情報「子どもに吃音を意識させないほうがいい」という情報を鵜呑みにしていた時期があったと言及したが、まさにそれ。

“この「診断起因説」は今から約八〇年前の仮説ですが、この仮説がベースとなって様々な誤解が生まれていったことを知らないと、間違った知識のまま吃音のある子どもに接してしまうことにもなりかねません。

p70

いや、本当に「それな……!」すぎる。

たかだか1、2年前(つまり2021,2022年頃)にインターネットで検索して複数ヒットした主流の情報が、「意識させないほうがいい」だったことを考えると、問題の根深さがわかる。

子が年長のころの私の家にタイムマシンで行って、今すぐこれを読みやがれとこの本を届けてやりたい(ちなみに本書の初版発行は2019年1月である。医師に吃音と正確に診断されていなかったこともあり、そうした書籍を探そうとしなかったわたし……のアホ!)。

ちなみに1990年代以降は、遺伝子研究などが進み、吃音の原因は家庭環境ではなく、生まれ持った体質(DNA)の要因で生じることが多いと考えられているとのこと(p75-79。参考:本書の出版は2019年1月)。今後も情報のアップデートを見守っていきたい。


第3章の「吃音治療の歴史」も、私が読んだ他の書籍ではあまり詳しく語られてはおらず、知らなかったので、大変勉強になった。

やっぱりこれまでどういう経緯を経て、いまの吃音を取り巻く環境があるのか、その背景を知ると知らないとでは「いま」の状況や現象に対しての解像度が違う気がする。

ちなみに、少し触れられていただけだが、声のピッチを上げたときや、ささやき声、大きな声で話すときに吃音が軽減するというのも知らなかったので、知れてよかった。

声のピッチだけでなく、ささやき声でも吃音が軽減します。また、図5にはありませんが、大きな声で話すのも吃音の軽減には有効です。これらからわかることは、つまり、吃音のある人は、通常の話し方が一番どもりやすく、少し話し方を変えるだけで吃音が軽減される場合が多いということです 

p117

子は遊びとして「小さい声でママだけに言うね♪」と耳元でこしょこしょ話をしてきてくれることがある。こしょこしょ声で話すのが楽しいという気持ちがあるようなので、家族としゃべっていて話しにくそうなときなど、シーンによっては、「こしょこしょ声で話してみる?」など遊びも兼ねて、おしゃべりを楽しんでもらうのもいいかもしれない。

また、最近は学校で送別会的なシーンで読み上げるセリフを(ほんのいち単語なのだけれど)、ものすごく大きな声で言う練習を自分で楽しそうにしていた。

おそらく本人にそのつもりはないと思うけれど、そうやって、シーンによっては大きな声を使うことで、「かっこよく言えた!」という喜びや自信を得られるなら、それはいいことだなと思う。(もちろん、以前他の書籍でも読んだように、過剰にそうした手段全般に頼って”支配される”感覚につながっていくとなれば、また別の問題なのだけれど)。

またp127から書かれている「吃音の自然経過」もとても参考になった。

現在わが子は小学1年生で、まさに本書にあるような難発の症状(”喉に力が入ったり、タイミングが遅れて数秒間声が止まる”)や、顔や口、首に力が過度に入る、ジャンプするなどの随伴症状がある。でも本人はおしゃべりをすること自体は好きで、気を許せると感じた人にはむしろどんどんしゃべりたがっているような感じを受けて、とてもいいなと思う。

そこから、思春期になっていくにつれて本人の工夫が増えていったり、話さないといけない場面を回避するようになったり、と別の問題になっていく可能性についても、先に知っておくことができてよかった。

小1の春にクラスでアナウンスしてもらったように、今後も新学期には子や言語聴覚士さんと相談しながら、できるかぎり周りの大人や子どもたちに、吃音についてのアナウンスを続けていきたい。

また、「周囲の理解」とともに「自分自身への自信」が大事なこともわかった。吃音だからといってそこばかりにフォーカスして考えるのではなく、いろいろな角度で、子が自信を育めるような体験を提供していけたらと思う。


参考になる、勉強になる、を連発していてそろそろうるさいとか嘘くさいとか思う方もいるだろうけれども、それが率直に一番思ったことであるし、個人差が大きいいろいろな物事についてはこんなふうに「(当人がそうだとは限らないけれど)参考になる、理解の助けになる」情報が体のなかに少しでも置かれていることが大切だと思っているので、めげずに繰り返していく。

なかでも「吃音外来」のエピソードを紹介した第4章がまた、具体的で臨場感のあるやりとりがたくさん詰まっていて、大変、大変参考になった。すべて参考になった本書のなかでも、小学校低学年の吃音の子を持つ親としては、一番参考になった章かもしれない。

外来でのやりとりが会話形式で紹介されていることもあり、実際のやりとりがつかみやすかった。

また、幼い子どもはもちろん、小学生から高校生や社会人まで、さまざまな年代、さまざまな状況の具体例を紹介してもらえたことが現在低学年の子を育てる身としてはとてもありがたかった。

(個人差が大きいからあくまで可能性として、という理解のもとでも、)わが子も成長につれてどのような問題が起こる可能性があるのか、どうやってその状況を解決しうるのかを、知っておくことは本当に大きい。いざというとき、とれる行動が変わると思うから。

また、吃音症の人は一般の人より4〜5倍という高い割合で社交不安障害があること、社交不安障害の発症平均年齢は15歳であること、社交不安障害は自殺企図率がうつ病よりも高い、などの知識も、触れておけてよかった。

いま、子はとても楽しそうに小学校生活を送っているけれど、中学生や高校生という時期は遠いようで、すぐやってくる。親としては「周囲の環境」や「自分への自信」につながる行動をしつつ、それでも上記のような社交不安障害の可能性についても、何かあればサインに気づけるよう、頭の片隅においておこうと思った。

親は、子の小学校入学時から高校、大学にかけてまで、学校の先生のみならず、子に関わりを持つすべての大人に対して、吃音の正しい知識を伝え続けていかなければなりません。吃音は、それほど誤解されやすい疾患なのです。

p162

この一文、肝に銘じておきたい。


以上、他にもたくさん引用しておきたい箇所がたくさんの1冊だった。

改めて、時代背景にしても、年代別にしても、「吃音をとりまく、さまざまな全体像」を見せてくれた1冊。

今まで読んだ1冊め2冊めがどちらかというと広く一般の方の意識を変えるものだとしたら、本書はもう少し当事者の周辺にいる人たちに、より深い理解を与えてくれるものだと感じた。どちらも、必要。

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また本書のなかでも示されているように、吃音をとりまく背景は時代とともにどんどん変わる。この本が出版された2019年からもまた、少しずつ変わってきているだろう。

書籍を何冊か読んできたことでようやく、誤解まみれのインターネットの大海原でも、情報を取捨選択できる目を持ててきたように思う。今後はインターネットでも前よりは怖がらずに、でも鵜呑みすることなく慎重に、情報収集をしてゆこう。


▼ 吃音を知ろう、と思った背景はこちら。

▼ 1〜2冊目の読書記録はこちら。

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