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『どもる体』(伊藤亜紗/医学書院)読書記録

2024年2月17日

吃音について知ろう読書、1冊目。吃音についてちょっと学んでみようと思った背景はこちらから。自分の備忘録も兼ねて、本を読んだときの印象などを記録してゆきます。


吃音についてなにか書籍を読んでみたいな、と思いはじめたころ、何かのリンクをたどっていったら偶然この『どもる体』のページにたどりついた。

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三好愛さんのイラストによる表紙も目を引いて、Web上で公開されていた試し読み数ページを見て、おもしろそうだなと思って迷わず注文した。

吃音について関連書籍を何冊か読んでみて、いま思うことは、一番最初に読んだのが『どもる体』で、個人的にはとてもよかったなあということ。

それは本書のスタンスが、私にとっては一番心地よくて、しっくりくるものだったからだ。

序章のなかで、こう書かれている。

“本書はあくまで「どもる」という身体的経験にフォーカスを当てます。それを乗り越えるべき症状としてではなく、体に起こる現象として観察したいのです。どもるとき、当事者のなかではいったい何が起こっているのか。それはどのような現象であり、当事者はそれとどのようにつ付き合っているのか。先にお話ししたように、そこには、人間がこの「自分のもののようで自分のものではない」体を抱えて生きることの本質があるように思えるからです。”

引用元:『どもる体』p27

「体に起こる現象として観察」という、ただただ客観的に、感情を交えずフラットな目線で、現象をひたすら分析していくというスタンスが、吃音という事象を理解したい自分にとってはとても興味深く、夫に「これおもしろいよ、おもしろい」と言いながらどんどん読み進めた。

どのくらいひたすら分析してくれるかというと、本書の第一章は「しゃべる」という行為を身体運動の観点から分析するところから始まる。そのうえで、吃音の代表的な症状である「連発」や「何発」について2、3章で考えていく。

この感覚を言い表すのは難しいのだけれど、誤解をおそれずにいえば、本書を読み進めているときの私の気持ちは「吃音、すげぇ」である。いやさすがに誤解をおそれてもうちょっとだけ正確に伝えると、「吃音、奥深い!」である。

特に印象的だったのは、本書の重要なテーマでもある、「ノる」と「乗っ取られる」のせめぎあいの話だ。

前半、「ノる」に関する話を読んでいたときは「そうか、リズムとか歌にのっていると吃音が出ないのか〜」という浅い理解で読んでいたら、後半になって「ただノればいいってもんじゃない」ということがわかり、自分の思考の浅さを見透かされたようでドキッとする。

“いつのまにか自分の主体性が奪われてしまう” p29

”「言葉が流暢に出ること」と「思ったようにしゃべれること」はまったくの別物” p189

詳しくは本書を読んでいただくほかないが、この記述に早めに出会うことができて、よかったと思った。

「リズムとか歌があるとどもらないから、歌とかつくったら楽しいし、いいかも〜♪」と浅い考えで歌づくりをしようとしていたけれど、リズムや歌は実生活では使えない。法則性が、場合によっては苦痛となることもある。

こうした話を背景として知っておくことで、仮に歌をつくるにしても、考えの深め方は変わってくるだろうと思った。

総じてわたしの本書に対する感想は冒頭にも書いたとおり、「この本が、私が吃音のことを知る一番最初の本でよかった」につきる。

あとがきのなかで著者の伊藤亜紗さんが

”必要なのは「他者」ではなく「他人」だったのです。私に共感してくれる「他者」との親密な対話ではなく、会ったこともない「他人」によるマイペースな解釈。それがかえって私の経験を開いてくれたのです。” p251

”「同じ立場にたって寄り添う」よりも「向こう岸から見られていた」ような関係に、ハッとさせられることがある” p251-252

と書かれているけれど、私にとっては本書がまさにそんな存在であった。

吃音当事者であるわが子の日々のどもりやフリーズを、「ああ、そうだったのか!」「なるほど!」と、他人の客観的な目線で見せてもらう、発見の感覚。

著者の伊藤さんご自身も吃音当事者であると知り、この客観目線での書籍がその方の手によって書き上げられたものだと知ったときは本当におどろいた。それくらい、すがすがしい気持ちで「なるほど、こういうことなのか〜!」という目線で読ませてもらっていたから。

情報は多角的に集めるのが好きなので、主観目線の本も、吃音当事者保護者向けの本も、いろいろと購入したしこれからも読んでいくつもりなのだけれど、これからもたびたび、なにか気持ちが引っ張られそうなときにはこの『どもる体』に戻ってこようと思う。

吃音て、奥深い。とても興味深い。是でも非でもなくて、ただただそういう現象を、私も見守っていけたらと思う。

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吃音を知ろう、と思った背景はこちらにまとめています。

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