もぐもぐエッセイ 日々の思考

パッタイ食べたい

2022年12月15日

ある駅前を歩いていて、さくっとランチできる場所を探していた。よく利用するチェーンのカフェやベーカリーが頭に浮かぶ。

でも、とショッピングセンターのショップ一覧に目をやる。その中に「タイ料理」を発見した瞬間、思った。

“わたしはパッタイが食べたい!”

気持ちが決まれば行くしかない。早足で店に到着すると、タイの屋台を模したような雰囲気、色合いの店構えで懐かしいような気持ちになる。初めてのひとり旅でタイの田舎にホームステイをしたのは、そうかもう、15年以上も前のことか……。

「ご注文はQRコードからお願いします」

店員さんから降ってきた言葉で、時の流れを思う。リアル店舗でも、店員ではなくてスマホに注文を伝える時代を、今の私は生きている。

英語やタイ語のメニューに苦戦することもなく、スマホでさくさくと、写真入りのメニュー(日本語)を見て、迷わずパッタイをタップした。パッタイをタップ。タップでパッタイ。

スマホをタップしたら、リアルの世界でさっ、とサラダが運ばれてきた。

サラダを置くとき店員さんはこちらを見ていなくて、どこか明後日のほうをみながらテーブルにことん、と置いて去る。

サラダには何もかかっていないようだった。テーブルのうえにはドレッシング…ではなくてタイっぽい何かを混ぜた調味料。これをかけ……るのかな? 何も説明なかったけど。とは思いつつ、そういう感じ、むしろ心地いいなとも思う。

「っぽい調味料」のふたをあけた瞬間、ああ、タイの匂いだと思った。ナンプラーっぽい魚醤の香りと、それだけじゃなくて何かまざっているのだけれど、よくわからない。とりあえず、遠慮がちに生野菜にそれをかけてみる。まあ、ありかもしれない。正解じゃないかもしれない。でもこういう手探り感覚、旅先ではよく味わう感じかもしれない。

それでいいよなあ、と思う。

お客様は神様じゃないし、お店の人は料理をつくったり運んだりしてお代をもらうし、お客はお代を払うかわりに満腹を得る。交換の関係であり、フェアな関係だ。日本みたいにぺこぺこしすぎない接客に接すると、そんなことを思ったりする。それにほら、自分でいろいろ試してみるのが楽しいし、旅だ。

肝心のパッタイは、個人的にはいまいちだった。

初めて行くタイ料理屋ではとりあえずパッタイを頼んでしまうので、わたしのなかにはそれなりにパッタイデータが貯まっていると思うけれど、ちょっとタレが入りすぎているのか調合なのか、もたっとしていて、私の好みとは少し違った。

部分的にお酢をいれてみたり、唐辛子をかけてみたり、ナンプラーをたらしてみたりといろいろ試してみたけれど、やっぱりちょっと、求めているものとは違う。

“パッタイ食べたい!”の気持ちは、わたしのなかで不完全燃焼に終わった。むしろ、下手にパッタイを食べてしまったぶん、「もっとおいしいパッタイが食べたい!」という、前にはなかった気持ちに火がついてしまった。

近いうち、おいしいパッタイを食べに行こう。そして「パッタイが食べたい2」を書くことで、わたしの衝動的な「パッタイが食べたい」という気持ちは初めて、昇華される。たぶんね。

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