絵本

『センジのあたらしいいえ』(文:イチンノロブ・ガンバートル、絵:バーサンスレン・ボロルマー/福音館書店 こどものとも年中向き2011年11月号):読書記録

書きたいことは他にもたくさん積もっているのだけれど、いろんなことが大詰めでまわりきらない。そんな日は、せめて絵本の読書記録を書いて心の平穏を取り戻そうじゃないか。

私にとって絵本紹介は、もはやそれ自体が自分のセラピーみたいなものである。

さて今日の1冊は、最近借りてきた本の中から、5歳娘の一番のお気に入りを。

ここのところ、寝る前に何日も連続で「これ〜」と持ってくる、『センジのあたらしいいえ』(文:イチンノロブ・ガンバートル、訳:津田紀子、絵:バーサンスレン・ボロルマー/福音館書店 こどものとも年中向き2011年11月号)だ。

『センジのあたらしいいえ』はその名のとおり、センジという男の子が家族で引っ越し、新しいまちの、新しい家に到着するところから始まる。

新しい自分の部屋が気に入らず、センジがふてくされていたら、部屋の壁の木目がスス、スとうごきだし、壁からふしぎな生き物たちが出てきて……とお話が展開してゆく。

とくべつめずらしいお話ではないけれど、なんだかこの、壁の木目から出てくる不思議ないきもの、もくもくじんたちが、「かわいい!」とも「きもちわるい!」とも言い切れない、怖いような陽気なような、そんな絶妙な風貌で、なんとも味わい深い。

味わい深いだけじゃなく、リアリティがある。木目にありそうだし、ほんとうに木目から出てきそうないびつさ、というか。

表紙をめくったときに最初にあらわれる「表紙の裏」には木の壁のもようが描かれていて、最初は「ちょっと変わった木目だな」くらいにしか思わなかった。けれどおはなしを読み終えてから改めて見直すと、そのなかにはっきりと「もくもくじん」が隠れているのがわかる。

そのくらい自然に、ほんとうに木目のなかに「いそう」なのだ。

「かわいい!」「明るい!」トーンでないのは、絵本全体の色調やタッチもそうで、全体を通して異国情緒のようなものが漂っている。でもこれがこの作家さんや、もしくはその国の文化の、持ち味なのだろうなと思う。

調べてみたら、絵を描いているバーサンスレン・ボロルマーさんと、文を書いているイチンノロブ・ガンバートルさんはモンゴル文化芸術大学美術学部の同級生かつご夫婦で、現在は日本を拠点に活動されているらしい。

日本人が生み出している絵本とはまた色合いも絵のテイストも違って、おもしろいなあ。

個人的に特に印象的だったのは、お話の最初、家々の遠景が見開きで描かれているページ。

家の立体感をあえて平面的に描いたり、センジの家を中心に、そのまわりの家は90度回転して描かれたりしていて、こういう表現もあるんだなあと新鮮だった。

これは国の文化なのか、作家さん固有の表現なのかはわからないけれど。

今日も今日とて、娘は「これ〜」と『センジのあたらしいいえ』を持ってきた。

「これ好きなんだね」と言うと、「だって、かべがしゃべるのおもしろいもん」とぐふぐふ笑っていた。

そうよね、おもしろいよね。かべ、しゃべったら。しかも、ありそうだなって思うもんね、この「もくもくじん」たちの感じ。

そういえば子どものころ、田舎へ帰ったときや旅館に泊まったときに天井が木目だと、なんだか顔に見えるなあ、と思いながらじーっ、と眺めていたっけ。子と過ごす日々は、忘れかけていた記憶をふと、連れてきてくれたりする。

いまごろ彼女は、もくもくじんと遊ぶ夢でも見ているころかしら。

 

※この記事の表紙画像は、福音館書店さんHP内の「著作物の利用」記述にもとづき、利用可能な範囲で使用しています。

-絵本

© 2024 あのてんぽ:At your own pace