絵本

絵と色彩の力が日々のストレスもふっとばしてくれるよ。【偏愛絵本紹介】『こどもたちはまっている』(荒井良二/亜紀書房)

2021年2月15日

たとえば仕事でちょっとしたストレスを抱えたとき、逃げ込める絵本と逃げ込めない絵本というのがある。

わたしにとって逃げ込める絵本というのは、ひらくと、瞬時にその世界へ連れていってくれるもの。視覚的にも色づかいが鮮やかで、見るだけで元気が出てくるような、癒やされるような気持ちになるものだ。

なんていうと、まるで「逃げ込めない絵本はだめ」みたいに聞こえるかもしれないが、もちろんそいうわけじゃあありません。

色のトーンがシックだったり、絵よりも文字が多かったりする絵本は絵本で、そういうものの方がむしろ読みたい、って気分のときもあるから。

気分とタイミングの問題である。

だから決して優劣の話ではないという前提のうえで、ただわたしは個人的に、逃げ込める絵本に救われているときが多いし、だからそういうものにより強く惹かれるのかもしれないなぁ、なんて思っている。

荒井良二さんが2020年の6月に出されたこの『こどもたちはまっている』も、わたしにとっては心がどうしようもなくなったとき、ぱっ!と逃げ込める1冊だ。

いちばん好きなのは、冒頭の見開きのシーン。

小高い丘の上あたりから、ゆるやかな斜面に連なる家々や崖、その先に広がる海の水平線を眺める構図。朝日なんだろうか。画面いっぱいからあふれるみたいに光が満ちているみたいな色合いがまた、とても好き。

見ていると心に温かいものが満ちてきて、なんというのだろう、ビジネス上のちょっとぴりっとしたやりとりとかが、さーっと洗い流されてゆく感じ。

ああ、豊かだな。豊かだな。と、何かを思い出すような。

構成としてはシンプルで、

こどもたちは まっている
ふねが とおるのを まっている

と、見開きごとに何かを「まっている」シーンが描かれるというもの。

その1ページ、1ページがまた、眺めているだけでやっぱり、豊かな気分になるのです。

前に『あさになったらまどにあけますよ』で「これは美術館だ」と思った話を書いたけど、やっぱりこの本もまた、美術館だ。

1枚1枚、額に入れて飾りたくなる。

でもあべこべなことに、それがこうやって「絵本」というかたちだからこそ、この上ない“贅沢感”を感じるのかもしれないけれど。

読んでいるあいだじゅう、絵を見つめているあいだじゅう、ああ、やっぱり豊かだな、豊かだなーと思いながら、筆跡や色合いから伝わってくるパワーに身をゆだねてみるのです。

ちなみにこの『こどもたちはまっている』は、荒井良二さんが、長新太さんの絵本『ちへいせんのみえるところ』へのオマージュ的に描いたものらしいことが、裏表紙の前のページに記されている。

わたし、今までも長新太さんの絵本は大好きだったけれど、この『ちへいせんのみえるところ』、知らなかった。

『こどもたちはまっている』を機に『ちへいせんのみえるところ』を知り、買って読んだのだけど、こちらはこちらでなかなか衝撃的な絵本なので、また別記事を書きたいなと思う。

でも2冊を読んでみても思うけれど、そしてしごく当然のことだとも思うのだけれど、この2冊はまったく別の作品だ。

地平線や水平線というモチーフは共通しているところもあるけれど、やっぱり『ちへいせんのみえるところ』は長さんじゃなきゃ描けないし、『こどもたちはまっている』は荒井さんにしか描けないな、というか。

それは絵の技法ももちろんそうだけれど、作品全体に吹いている風とでもいうのだろうか、それが違って、たしかに違っていて、だからこそいいなぁ、好きだなぁと思う。

『こどもたちはまっている』を誰かに贈るなら、こどもがいる・いない問わず、美術館へ通うのが好き(だった)ような知人・友人へのプレゼントにしたいかな。こどもがいてもいなくても、楽しめる絵本だと思う。

一方こどもならこどもで、この色彩の豊かさやパワーとか、絵本のなかにある光みたいなものには本能的に惹かれるような気がするし、早く触れるのはとってもいいことだなぁ、と思うし。

ちなみにわが子の反応でいうと、特段わたしみたいにこの本が大好き!というわけではない。でももちろん、きらいというわけでもない。

ただ、たまにわたしが読み聞かせるとじっと見てきいているし、翌朝起き抜けに、自分で「こどもたちはまっている」って音読しながらぱらぱらめくっていたりする。

そんな距離感でも、身近に触れてくれることが嬉しいなと母は思っている。成長するにつれて、反応も変わってくるかもしれないし。

ところでこの本のさいごに、「カーテンがあくのを……」というシーンがあるのだけれど、そこに描かれているカーテンを見ていると、どうしても『あさになったのでまどをあけますよ』を連想して、そのまま通しで読みたくなるのだよな。

2冊を読み終えるころには、仕事で感じたぴりっとしたストレスも、ずいぶん遠くに感じられるようになっていたり、するのです。

こどもたちは まっている (亜紀書房えほんシリーズ〈あき箱〉 3) [ 荒井 良二 ]

 

▼通しで読みたくなる、荒井良二さんの朝と夜の絵本。主観的すぎるレビューはこちらから。

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