子が1歳くらいのころだっただろうか。まちに個人経営の小さな本屋さんができて、初めて訪れ、せっかくならおみやげに何か買って帰ろう、と思い立って選んだのがこれだった。
ロングセラーの1冊なので、記憶にある方も多いかもしれない。でもわたしは、自分が子どものときに読んだ記憶はなかった。母に言ったら「読んだわよ」と言われるかもしれないけれど。
手にとったのは、表紙の雰囲気に惹かれたからだった。
なんてかわいらしい絵本だろう。そう思ったのだ。
春みたいに明るくてやさしい色づかい。背景には、ちょんちょんと小花の咲くお花畑。その中で何やら、ミシンを使っている、うさぎ。その伏し目がちなところも、ミシンで顔が隠れているリアルさもまた、好きだなと思う。
これがロングセラー絵本だと知らなかった当時のわたしは、色づかいやイラストの雰囲気から、第一印象ではむしろ最近の、新しい絵本だと思っていた。
そうして読み終えて、「1969年12月1日第1刷発行」の文字列を目にしたとき、ほんとうに驚いた。だって親であるわたしが生まれるよりも、はるかに前。
いや、絵本にはロングセラーが多いことは知っていた。長年愛される絵本は多い。
でも、そういった絵本は絵の雰囲気もどこか懐かしかったり、読んでいるうちに「あ、昔の絵本かな」と感じとれるようなことが、多いと思っていたのだ(それが悪いというわけではなくて、むしろその感じが愛おしかったりもするという意味で)。
その点、この『わたしのワンピース』について驚いたことは、絵の雰囲気や色づかい、お話のことばづかいなどすべてに、まったく古びた印象を受けなかったこと。
なんだろう。
線の軽さとか、うさぎの浮遊感とか、どちらかといえば無表情な感じとか。なんだか今っぽい。それからやっぱり、色づかいとか。たとえば「5年前に発行されたものですよ」と言われても、私だったら信じてしまうかもしれない。
日々いろいろなコンテンツが作られて、飽和して、ものすごい速度で消費されていく今の世の中。その中で、50年経ってもまったく古びない作品に出会って、ひどく感嘆したのを覚えている。すごいことだ。ほんとに。
そしてそういう絵本の位置づけもさることながら、もちろん、お話自体もとても好き。
というか、はじまり方からして、大好き。
まっしろなきれ ふわふわって そらから おちてきた
って。
ほんとうに、なんてかわいらしい絵本なんだろう。
お話は、このきれでうさぎがワンピースをつくるところから始まる。そうしてお花畑にさんぽに出かけると、ワンピースが花もようになって、雨が降ると雨もようになって……。
いやはやしかし、このうさぎ、やっぱり見ればみるほどたんたんとしているな。
目元にはちょっとだけ変化があるけれど、口元とか頬とかには、ほとんど変化がないのだもの。でもだからこそというべきか、そのぶん主役である「ワンピース」の変化に目がいって、引き立つのかもしれない。
そのたんたんうさぎとワンピースの変化を軸に、しずかに、おだやかな雰囲気でお話がすすんでゆく。そのおだやかさを、春色の色合いと色鉛筆のタッチが高めてくれる。
その全体の雰囲気が、わたしがこの絵本に惹かれる理由かもしれない。
ちなみに子どもに読み聞かせるなら、0歳〜2歳くらいが一番、楽しめるころかなと思う。ページごとの文字数は少ないので、4〜6歳でひらがなが読めるようになってきたら、「自分でもう一度読んでみたら」とすすめてみようかと思っているところ。
これを書いているいまはあまり、「読んで」と持ってこなくなったけれど、母はときどき本棚から出して、眺めたりしている。
そのたびに何度でも、「これ、1969年に第1刷かあ……」と感動する。
そして、背景を塗りつぶしている色鉛筆の筆跡をじいっと眺めて、当時に思いを馳せて……いると、そこからここまで流れてきた時とか、変わりゆくもの、変わらないものなんかにも思いを馳せちゃって、はあああ、となったりしているのだ。
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