絵本

何度もページを行き来したくなる『いろいろないちにち』中村まさあき/文化出版局【絵本紹介】

図書館で何気なく手にとって、見れば見るほど、「ああ、こういうの、子どものころ大好きだったなあ。というか今も、好き……!」という気持ちが募って、子と一緒に読みたいな、と思って借りた1冊。

6歳になったばかりの娘と一緒にひらいて読んだら、彼女もやっぱり気に入ったらしく、読み終えてすぐ「(他の絵本読んでから)最後にまた、これ読む!」とはりきっていた(そのときは結局、次の1冊を読んでいる途中で寝ちゃったのだけれど)。

タイトルと表紙の絵からもご想像いただけるかもしれないが、こちらの絵本は、「ごぜんにじ」から2時間きざみで、あるまちの日常を追っていく……という構成の絵本。

新聞屋、魚屋、八百屋、病院、ベーカリー、旅館、ホテル、駅や電車、幼稚園、レストランや魚市場などが見える高台に定点カメラがあって(?)、そこから彼らの日常を垣間見ているような感じ、といったら伝わるだろうか。

たとえば

ごぜん よじ

のページはまだまち全体が薄暗くて、新聞店や豆腐屋、交番や消防署に寝台列車など、一部の施設のみ明かりが灯っていて、そこで動いている人たちが描かれる。

そこから2時間後、さらに2時間後……というように、建物の位置は変わらず、人々の生活や、まちの動きの変化を眺めることができるのだ。

個人的に私が、「こういうの、好きだったし今も好き」というのはまさにこの要素。

作者の中村まさあきさんが描くこのまちの「いちにち」は、とても細かく、一人ひとりの表情までしっかり描き込まれている。

だから「あ、八百屋さん、家族は寝てるけどお父さんだけ先に起きて顔洗ってるね〜」とか「ほらほら、子どもたちはまだ寝てるけどお母さん起きてきたよ」とか、「みて、おじさんしんぶんよんでる!」とか「あ、お兄さんやっと起きたね」とか、子どもと読んでいてもたくさんのおしゃべりが生まれるのが楽しい。

「ウォーリーを探せ」を眺めるように一人ひとりをじっと見たくなるし、さらに、ウォーリーよりもおもしろいところは、一人ひとりに、その1日の流れ、ストーリーがあって、それをああだこうだ想像できるところだ。

隅から隅まで一人ひとりのストーリーが散りばめられていて、ずーっと眺めていたくなる。

……と、大いに満喫しながら最後までまず一度読んだのだけれど、子が寝たあとにひとりで作者の中村まさあきさんによる「ありそうな町 あとがきに代えて」のページを読み、まだまだ、全然読めていなかったな!と思わされた。

一人ひとりのストーリーがある、と思いながら読んでいたはずだったけれど、中村さんのおっしゃるところの

"(前略)以上は私がこの本を描きながら心のなかに湧き上がった物語ですが”

の前に綴られていた舞台設定や物語の豊かさは、自分のそれよりも明らかに、はるかに精度が高かった。

このまちは、このまちに住むひとたちは、確かに、存在している。

中村さんの解説には、そう思わされる説得力があった。なかでも、駅で泣いていたおばあさんにはそんな背景があったとは……。ページを行ったり来たりして、なるほど、確かに……なんて思う。

もちろん中村さんがその後に、

”それ以外にも、人それぞれの物語が作れるのではないでしょうか。千人の人が見れば千通りの、1万人であれば1万通りの物語ができると思います。”

と書かれているように、必ずしもその通りに読むべし、というものではない。決してない。

ただ、どんなストーリーを想像するにしても、少しでも同じくらいの深さまでもぐってゆきたいというか、もう一歩深く観察したり、思いをめぐらせたりして、また娘と読んでみたい。そう思った。

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