日々の思考 書籍

『小さな泊まれる出版社』(真鶴出版)読書記録

2022年12月7日

店主さんによって選書された小さな本屋さんが好きで、訪れるとついたくさん本を買ってしまう。

そうして積もった2022年の積ん読本たち。できれば年内、できなければせめて年末年始のあいだには読みたいと思う。励みにしていきたいと思って、積ん読本読んだよ記録とともに、主観的な感想メモを残していこうと思った。

1冊目がこちら。『小さな泊まれる出版社』。

ブックスキューブリックけやき通り店で、タイトルとイラストも含めた本の佇まいが好きで、手にとった。

そのときは今ほど明確に思いはなかったのだけれど、その後いろいろあって自分も今住んでいる地域で小さな場づくりをしてみたいという思いが強まってきたこともあり、積ん読本のなかでも真っ先に手にとった。

開いてみたらやっぱり、いい。

内容もそうなのだけれど、入る前からやっぱり佇まいがいい。好き。

冒頭の半透明の紙も、そこから誘うように続いてゆくまちの道のりも、写真の雰囲気やキャプション含めた構成も。

そうしたビジュアル重視部分とはまた違って、本文は機能美というか、内容にしっかりと集中して読むことができるメリハリも好きだ。

ものとしての喜びというか、愛情を端々に感じる本だなと思う。大切に育てられたんだなあと思う人に出会うと感じる感情に近いかもしれない。

肝心の内容も、とても興味深かった。

地方で事業を立ち上げるということに興味を持ち始めた段階の自分にとっては特に、お金周りのことや話し合いの進め方などを含めて、リアルで具体的な話を閉じ込めたこの1冊はすごく、最初に読んでよかったな、ありがたいなと思った。

施工の最初の見積もりは予算の3倍で、そこから減額していったという話は特に印象的だった。何も知らなかったら、予算の3倍の見積もりを提示された時点で私なら心折れてしまいそうだと思ったからだ。そうか、こうやってすり合わせながら実現可能な形を探ってゆくのだなと参考になった。

もうひとつ自分のなかで特に残ったのは、できることからスモールスタートで始めるという話。なかでも地方での事業立ち上げ期に気をつけたほうがよいこととして、「自分たちの事業にしっかり時間をとること」をあげていたこと。

“もちろん自分たちの資金と相談しながら掛け持つことは必要だとは思うが、もう回っている歯車の中に入ってしまうと、どうしてもそちらに時間を取られてしまうことが多い。「人手がなくて困っている」という場所があると、ついつい手伝いたくなってしまう。
一方、自分たちの事業は誰が困るというわけではないので、滞ってしまう。(中略)「自分たちのことを進めるのは自分たちしかいない」ということを心に刻んで進んでいかないといけない。”

(『小さな泊まれる出版社』p59-60,真鶴出版 より引用)

これはフリーランスとしてクライアントワーク行う身としてもすでに、自分で自社事業的に進めたいことのバランス感として体感のある話なので、改めてそうだよ、そうだよなととても胸に残った。やっぱり自分で事業をつくろうと思ったら、そのための時間をしっかりと確保しないといけないなと思う。それは断る勇気を持つことでもあるとも。

また、まったく本筋ではないのだけれど、個人的にもっとも衝撃だったのは、筆者であり真鶴出版を立ち上げたひとりである来住さんが物件の設計スタートあたりで妊娠が発覚したと記されたあと、しばらくお子さんに関する記述はなく淡々とプロジェクトの進行を示す記述がつづき、解体キャンプのところで突然、「まだ生後三ヶ月だった子供を置いていく訳にはいかないので、抱っこひもで抱っこしながら……」という記述がぶっこまれてきたところである。

「えっ、この間にひとをひとり生んでおられる!」という衝撃。

妊娠・出産前後がもうれつにいろいろと大変だった記憶しかない自分としては、こんなにも鮮やかに、軽やかに、事業づくりをしながら、その間に出産されていたのだなあというのが一番の衝撃だった。そして、プロジェクトの進行は時系列でとても丁寧に解説くださっているのに、「このころ子が誕生して大変だった」というような記述もまったくない。なんという潔さか。脱帽した。

本書を読み終えた人の多くがそう思うだろうけれど、読み終えて私も、ああ真鶴出版さん、いつか訪れてみたいなあと思った。なんといっても『泊まれる出版社』なのだもの。

そうしてSNSを見つけて少し見ていたら、おや、なんだか見たことのある表紙がある。『日常Vol.2』という表紙。これも、表紙とぱらぱらとめくったときの印象だけで、もっと最近ブックスキューブリックけやき通り店に行ったとき、ピンと来て衝動買いした1冊だったのだ。

そのときは裏表紙だけみて「一般社団法人日本まちやど協会」さんというところが発行しているのだな、とは見ていたけれど、SNSを見てあわてて部屋からその1冊を出して裏表紙の裏を見てみれば、ほんとうだ、編集長は真鶴出版の川口さん。

違う時期に同じ本屋を訪れて、どちらもピンと来て何気なく連れて帰った2冊がリンクしていたことに後から気づいて、わぁ、と思ったのだった。

 

▼真鶴出版さんの『小さな泊まれる出版社』販売ページ
https://manapub.stores.jp/items/5dd14693b2f6fd20a555990f

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