ZINE 書籍

文学フリマ福岡9で買った本・ZINEの感想【vol.2】『くまぬいぐるみ本』『いつも焦っています』『アンダンテ』『カクガクシカジカ』『さようなら、董大』『ひつじがの自我〜濾過版〜』『ODD Zine』『代わりに読む人』

思い立ったが吉日。

すっかり機を逃してしまいましたが、2023年10月22日に初出店した「文学フリマ福岡」(その日の記録はこちら)にて、ご縁あってめぐりあったみなさんのZINEや書籍たちの感想をぽちらぽちらと置いてゆく試み、第2弾。

Vol.1はこちらから。

今回もせっかくなので(?)、個人的に、それぞれの本のお供にしたいと思った飲みものか食べもの(たまにシーンも)を勝手に書き添えておきます。ぜひご一緒に。

※書影について:文学フリマではSNS上で作品の書影や感想をシェアすることが奨励されている背景と、自分自身も作り手として書影掲載を歓迎することから、書影を掲載させていただいております。問題がある場合は大変お手数ですが、DMやお問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

『くまぬいぐるみ本〜移行対象としてのぬいぐるみ』(くむ組む vol.5)

向かいのブースで手慣れた様子で出店されていて気になっていた。『国立国会図書館本』から『左右本』『ふるさと納税本』に『ネイル本』、そしてこの『くまぬいぐるみ本』などなど、多岐にわたりすぎるタイトルの冊子がずらりと並ぶ、くむ組むさんのブース。

ご自身が気になったことを調べてまとめて冊子にしているとのこと。興味の幅が狭まってしまいがちなわたしにとって、深掘りしたいと思う興味の幅が本当に幅広いこと自体、尊敬してしまいます。

何より、始めるより継続のほうが難しい自分にとっては、統一された落ち着いたフォーマットで安定的に、着々と新作を作り続けるくむ組むさんの姿勢を見習いたい……。

ちなみに私は『くまぬいぐるみ本』を読んで、初めてテディベアの起源を知ったり、グル〜ミ〜を見る目線が変わったりしました。

それから、子どものころに繰り返し読んだ、人形売り場の人形たちが話している童話のことも久しぶりに思い出したりも(タイトルがどうしても思い出せない…!)。世の中は知らないことであふれているなあ。

■ 本のおともにしたいアイテム:お気に入りのぬいぐるみまたは毛布

 

『いつも焦っています』(高柳しい)

これぞZINEの醍醐味。ホチキスで手製本した3冊の分冊日記を、表紙兼まえがきの印刷された厚めの紙で閉じて渡してくれるのだけれど、その表紙の色をブースで「何色にします?」ってマジシャンみたいに紙を広げてくれるの、リアルイベントの手売りならではのやりとりで、とてもよかった。

内容はとてもリアルな日記。「ガチの日記です」ってご本人もおっしゃってたけれど本当にガチの日記で、いいこともあるし、ストレートな感情が赤裸々に書かれているので、読んでいて結構どきどきした。でも日記ってこうだよなあ、と思う。

自分が弱っているときにパラパラとめくると、そうだ、世の中の自分以外のひとも、いろいろ抱えながら毎日を生きてるよ、SNSにあらわれているのはきらきら切り取りなだけで、リアルな毎日や感情はみんないろんなものが混ざり合ってるよ、と、ちょっと心が穏やかになるようだった。

あ、あと、作者さんと夫さんとの関係が素敵だなー、と思いながら読んだ。

■ 本のおともにしたいアイテム:美味しいサンドイッチか、汁なし担々麺

 

『アンダンテ』、『カクガクシカジカ』(音葉ネリ)

SNSで少し前につながっていて当日会場でお声がけくださったのを機に、ブースに遊びに行って購入した2冊。

『アンダンテ』は歩くことをテーマにしたエッセイ、『カクガクシカジカ』もエッセイなのですが、なぜこのタイトルかは読んだ方だけのお楽しみということで。

内容に触れないように感想をお伝えすると、どちらも、一緒に歩くみたいなテンポの文体が独特だし優しいなと思いました。自分の話をしているのだけれど、常に語りかけてくれるし、読んでいるだけなのに会話しているみたいな。

いいことも大変なこともいろいろあるなかで、等身大で楽しんでお仕事も創作もされているんだなあ〜という空気感がはしばしから伝わってきました。

■ 本のおともにしたいアイテム:パルメザンチーズたっぷりのトマト系パスタ

 

『さようなら、董大』(muro)

「歴史を楽しく学ぶCOTEN RADIO」のリスナーさんコミュニティで配布されている、「コテン瓦版」というファンコミュニティ紙で、2年間にわたって隔月でmuroさんが連載してきた600字ずつのコラム、12本をまとめたもの。

手にとって思うこと、まず「物」としての喜びがとてつもない。

ハードカバーで重みのあるしっかりとした作りに、絵本作家さんが描いたのかなと思う表紙絵。表紙も本文用紙も重厚感があり、かつマットでなめらかなコーティング加工がされていて、ずっとなでなでしていたくなる。ああ、ていねいにつくられたものだなあ、と思った。

だけに、心して開かなければいけない気がして(寝っ転がって開いちゃいけない気がして)、開くまでに時間がかかった。

読みながら、600字という文字の感覚が自分のなかで歪んでいく。600字の密度がすごい。600字って、これほどの世界を詰め込めるものなのだな。

自分も書くような気軽なエッセイはさくさく食べるおやつみたいな雰囲気があるとすると、muroさんのコラムはちゃんと咀嚼しながら読み進めたい味わいで、それが本のつくりともマッチしているなとかんじた。

一気に読むよりは、純喫茶でコーヒー片手に、1コラム読んではコーヒーをすすり、中庭の緑を眺めながら思いを馳せる、みたいな、ゆっくりした読み方がしたい。

「おわりに」の、結び方が好きでした。

■ 本のおともにしたいアイテム:夕日の見える喫茶店で小さなオブジェを机に置きながら

 

『ひつじがの自我〜濾過版〜』(シモダヨウヘイ)

福岡の本好きなら言わずと知れたブックバーひつじがの店主、シモダさんのエッセイ。昨年の文学フリマでは「無濾過版」を販売されていて、今年はそれにいくつかのエピソードを加えて再編集した「濾過版」を販売されたそう。

朝、家で仕事の作業をする前に、「今日はやらなきゃいけないことがあるから、後でゆっくり読もうっと。いや、でもちょっとまえがきだけ……」と軽い気持ちで表紙を開いてしまったが最後、軽妙なリズム感と内容のおもしろさの両面から引き込まれて一気に読み終えてしまった。どうしてくれよう(その後ちゃんと仕事もした)。

たんたんと続く短文。感情に必要以上に深入りせずにいるのだけれど、随所にくすりと笑いが忍ばされている。じわじわとくる笑い。飲みやすくて自然とごくごく読んでいるうちに実は強い濃度でひつじが成分が体内に入ってゆく。

具体的にあれやこれやの話をあげたいけれどそれは読んだ方の特権だとも思うので、コロナ禍の裏側で、いろいろとあったのだなあ……!と私のなかのひつじが検定レベルが2くらいあがったことをお伝えしておく。

個人的にはp57から描かれているひと騒動が特に印象に残った。お客さんのいる現場では、おそらく冷静沈着な面持ちでもろもろのトラブルに対処していたであろうシモダさんの表情が思い浮かびつつ、エッセイでは脳内で連日、真剣に仮説・検証を繰り返し対策を講じてゆく様子が描かれていて、これだからエッセイはおもしろいのよ、と妙に納得した気持ちになった。

■ 本のおともにしたいアイテム:焼酎

 

『ODD Zine』(太田靖久、ほか)

小説家の太田靖久さんが企画・編集しているODD ZINE。Volume3、9 1/、7の3冊をお迎えした。まっさきにこれ!と選んだのは特集テーマが「作家たちの手書きメモ」のVol.7だった。

文字通りいろいろな作家さんの手書きメモがスキャンされて生々しく載っているのだけれど、手書きメモを見るだけで人はなんでこんなに楽しいのだろう。パラパラとめくった段階では「展示会や博物館などで展示されているメモみたいだ」と思ったのだけれど、ちゃんと開いて読み始めてみたら、それより圧倒的に意味がわからないことに気づく。

そりゃあそうで、よくある展覧会などではその作者ひとりにフォーカスを当てて、その流れのなかで懇切丁寧な解説とともに手書きメモが紹介されているが、このなかではそうした背景などはほぼ読者に知らされないまま、しかも一人ではなくいろいろな作家の手書きメモが、断片的にどんどん現れるのだ。しかも字は大部分が難読だったりする。かと思えば読みやすい字ですっきりと書かれておお……勉強になる!みたいなメモも出てきたりする。

ひとつひとつのメモを味わうよりも、全体として、この雑多なメモが詰まった空気そのものを味わうことが気持ちいい冊子だった。

それはVol.7にかぎらず、ODD ZINE全体を通して貫かれているコンセプトのようにも思う。賞なども受賞され実力のある作家さんたちが、ZINEという一般人からも手の届く場所でわいわい遊んでいる。ゆるっと描いたようなイラストや手書きの文字やスマホで撮った写真なんかがあったりする。読者はそれを垣間見る。なんだか一緒に遊べそうな気がする。そんな場所みたいな、冊子だった。

■ 本のおともにしたいアイテム:自販機で売ってるコーンスープかおしるこ(なんとなく)

 

『代わりに読む人』

友田とんさんが主宰するひとり出版社、代わりに読む人が発行する文芸雑誌、『代わりに読む人』の創刊号。文芸に携わる人だけでなく、さまざまな分野で活動する人たちにそれぞれの支援でエッセイ、小説、漫画などをつづってもらうというもの。

前から順に読み進めていったのだが、作品の振り幅が大きいことが印象的だった。最後に執筆陣のプロフィール一覧があるのだけれど、それを眺めているときが一番楽しかったかもしれない。作家、漫画家、本屋といった本にまつわる職業の方も多い一方で、コーヒーやさんとかお菓子やさん、数学者や物理学者までいらっしゃり、振り幅もさもありなんと頷けた。

個人的に一番読み心地が好きだなと思ったのは二見さわや歌さんの「骨を撒く」だったのだけれど、きっと物書きの方だろうと思ったらプロフィールでお菓子屋さんだと知り驚いた。衝撃につられてうっかり検索して、かわいいお菓子たちを見ておなかがすいてしまった。

最初に読んだときも、この方はパンを日常的に焼く方なんだろうなあと思いながら読んでいたけれど、プロフを拝見してから読み直したら繰り返し登場するパンづくりに関する描写や自営業まわりの話が一段ぐっと浮かび上がって、胸に入ってくるように感じた。

ここでもういちど友田さんの序章ページが偶然ひらいて、”分野が異なれば見えている景色も、また使う言葉やその使い方も違います。”の一文が目に入る。その文章の伝わり方も、本書を読む前と後では違った。

自分にとって馴染みのない分野の文章は、読むのが難しくてわからないなぁ、と感じたものも複数あった。でもそれでいい、と思う。等しく言葉だし、自分のあたまのなかにあるものを言葉をどうつかってどう表現するかはその人に委ねられている。

あるときは全然わからん、と思って読んでいたものが、しばらくして読むと「おお、こんなことが書いてあったのか」と思うときもある。

みなそれぞれの解釈で世界を見て感じて表現していることを思い出させてくれる。そんな1冊だなと思った。

■ 本のおともにしたいシーン:人が行き交う駅とか電車内で、飴とかなめながら

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ということでひとまず、文学フリマ福岡9で買った本の感想は、以上!

途中から文体変わってるしVol.1とVol.2のボリュームの差がすごいですが、お手柔らかに。計画性がないとこうなりますよみなさん気をつけてくださいね。

文フリ以外で個別に買ったZINEなどはまだまだたくさんあるのだけれど、ちょっと時間の余裕がないため、それはまた機会があったらぽつらぽつらとアップしてゆきたいです。

最近は他のいろんな波に飲まれて創作活動が完全にストップしているけれど、何かしら、ほそぼそとでも、今年も生み出してゆきたい。

マイペースにしかやってゆけないけれど、それでも、0.1でもね。

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