娘が生まれて初めての3月3日を迎える前、わたしの母、つまり娘の祖母からもらったのがこの『もりのひなまつり』だった。
正直に書こう。このプレゼントをもらった当時のわたしの気持ちは「はー?」である。だって娘は生まれてまだ2か月とかそこらで、ばぶばぶしていて、おぎゃあと泣くか眠るかおっぱい飲むかしていないころ。
初節句に季節の絵本を送りたいという気持ちは伝わってくるしありがたいけれど、なんだってこんな文字の多い本を。しかもこのおひなさまの描写、けっこうリアルだし。もっと子ども受けしそうな、イラストっぽくデフォルメされたおひなさまの絵本とかなかったの。
何たる無礼。なんと浅はかな。
いま、当時の率直な気持ちを思い出し綴りしていて、あー、当時の自分、あんぽんたん!と思った。でもしょうがあるまい。産後は生きることに必死だったしあんぽんたんだった実際。
わたしがあんぽんたんだったせいで、この絵本に対するわたしの「第一印象」はあまり高いものではなかった。優劣ではなく、完全に“好み”の問題で。
しかし重要なことに、それから1年、2年、3年、4年と月日が経つうち、一番じわじわじわ、と我が家の中で評価が高まってきているのもまた、この絵本なのである。
読んであげるなら「3才から」と裏表紙にあるように、この絵本が本領発揮するのは3才ごろからなのかもしれない。
3歳、4歳。保育園や幼稚園を通して、年間の行事がだんだんわかってくる。興味をもってくる。
そのころに、一番読み聞かせてあげたい。そう思える絵本がこれだ。
最初は「リアルだな」とあまり好きではなかったおひなさまやお内裏様の描写も、毎年読むごとに印象が変わり、今では「ああ、これだからこそいいんだな」という気持ちになっている。
考えてみれば、登場するねずみたちなど他のキャラクターは、とてもかわいらしい風貌で描かれている。だからこそ、そのねずみたちと一緒に歌い踊るお雛様やお内裏様、三人官女や五人囃子、右大臣に左大臣のリアルな絵柄が「ふしぎさ」を生みだす。
たとえばこれが大きくデフォルメされたイラスト調のおひなさまであれば、この感覚は味わえないんじゃないか、と思う。すべて、よその世界のこと。作り話。極端にいえばそうなってしまうから。
でもお雛様たちが、ほんとうに家や保育園や幼稚園で飾られているあの佇まいであの顔をしたお雛様が、森のなかで踊っているとなれば話はちがう。
あれ、お雛様、もしかしたら夜にはお出かけしてるのかも……という想像だってふくらむかもしれない。
箱の中で何層の紙にも包まれてしまわれているというシーンや、着物や小道具などを扱うシーンもますますリアルさを高めているなと思う。
あー、こどものころ、おひなさまを出すの、楽しかったな。ちっちゃい鏡とかちっちゃい太鼓のバチとか、セットするの楽しかった。
読んでいるおとなにもそんな感覚をありありと思い出させてくれる。
そう、このおひなさまたちは、本物だからこそいいのだ。
なーんもわかっちゃいなくてばあばのプレゼントに「はー?」と思っていたころから、これを書いている今は4年目。
今ではひなまつりの前に、絶対に読んであげたい1冊になっている。
年間行事をだいぶわかってきた今年は、どんな反応をしてくれるか楽しみだ。