※本シリーズ(vol.1〜6)は2019年に書いた過去noteより転載するものです。当時とは感じ方など変わっているところもありますが、当時の記憶として、そのまま載せてゆきたいと思います。
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暑い。毎日暑すぎて、とてもたんたんとなんてしていられない。
口をひらけばふたことめには「暑い」だし、日傘をさしてようが帽子をかぶろうが、コンクリートの照り返しと、周りからまとわりつくような熱気はどうしたって「暑い」し、リビングで冷房を入れようがキッチンではコンロの前で汗がだらだら流れるほどに「暑い」し、寝るときも冷え過ぎを恐れて冷房を切ろうものなら「暑い……」と汗びっしょりでのそりと起きる。
まあだから、とてもたんたんとなんてしちゃいられない。イライラ導火線だって日ごろよりさらに短くなっちゃって、どうしようもない。けれどもそんなふうに、暑い暑いとカッカした自分を、やれやれふうと平熱に戻してやるべくこの「たんたんと」というフレーズがあるのだ。
というわけで、冷房の恩恵にあずかり、今日もたんたんとゆこうじゃないか。今回は図書館で借りた14冊の中から4冊を、買った中からも1冊を。
ああ、暑いなぁ……。
※『たんたんと、絵本の記録を』シリーズをはじめた気持ちの背景はvol.1にて。
最近のお気に入り絵本(娘2歳6ヵ月)/2019年7月_2
※ちなみに「お気に入り」とは、娘が気に入ったもの、わたしが気に入ったもの、2人とも気に入ったもの、どれでも可というゆるい運用です。
『かばくん』(岸田衿子さく、中谷千代子え/福音館書店)
この表紙に見覚えがあるよ、というひとはきっと多いのではなかろうか。自分たち世代も、家や幼稚園など、きっとどこかで一度は触れているだろう、1962年発行のロングセラー、『かばくん』。
実は少し前に動物園に行き、2歳の娘も一緒に、かばがスイカを食べるシーンを目撃した(目撃、と言いたくなるくらいの迫力はあった)。その後しばらくは、家でも「あば(かば)!すいか!あむ!」と言って、上を向いて「バクッ!」という食べ真似をして喜んでいた娘。
そんな背景があったので、図書館で懐かしの表紙を目にして、”絶対いまこれ!”とピンと来て借りた。予想通り、その週借りたなかでは娘のお気に入りNo.1に。「あばくん!」と言いながら、大切そうに抱えては、繰り返し読んでと持ってきた。
絵本の中にも、キャベツまるごとをガバッ、とおおきな口で食べるシーンがある。動物園での記憶とリンクして、楽しんでいたのかなと思う。
一方、母は母で、「ああ、ロングセラー作品ってほんとうに、50年以上たっても全然内容が色あせないんだなあ」とか、「かばの色ってこういう色を重ねて表現するんだなあ」とか、「キャンバスの布地っぽいところに色を塗った質感とか、それを削り取って表現したかばの皮膚とかおもしろいなあ」とか、子ども時代とはまた違ったところに感嘆しながら楽しんでいた。
ちなみに、娘がこの絵本で新しくおぼえた単語、「あぶく」。
『おめんです』(いしかわこうじ/偕成社)
借りた中での娘のNo.1が『かばくん』なら、最近買った中での娘のNo.1は文句なしにこれ。『おめんです2』。こどもと一緒に遊べるしかけえほん。
構成としては、たとえば“こわーい おおかみのおめん かぶっているのだあれ?”と読んでから、おめんの部分をめくると、別の動物があらわれる(どの動物がおめんをかぶっていたかわかる)形になっていて、それがいろんな動物、いろんなお面でつづいてゆく。
実はこれ、福岡で開催中の『絵本ミュージアム』に行った帰りに、併設されていた購入コーナーで買ったもの。うーんどの絵本買おうかな、と見ているとき、抱っこされていた娘が「おめんです!」と言って指さすので「これ?」と手にとってその場で見せてみた。
どうやら保育園で何度も読んで、すっかり覚えていたらしい。おめんの部分をめくる前から、「めぇめぇ!」「らいおん!」と中の動物を嬉しそうに答えていた。あまりに楽しそうなので、家にも一冊購入。おめんのページ部分を自分の顔に当てたりして「うきゃー!!」と楽しそうだ。
そう、おめんページは目の部分に穴が開けられているので、本を持ちながらではあるけれど、顔に当てればちゃんとほんとに「おめん」なのだ。そういうこまかいところも、一緒に遊べるようによく考えられているなあ、と感心した絵本。
『言葉図鑑5 つなぎのことば』(五味太郎/偕成社)
五味太郎さんの言葉図鑑シリーズ。「うごきのことば」「たとえのことば」など、一冊ごとにテーマを変えて全10冊ある中から、今回は第5弾の「つなぎのことば」。ちなみにこの1冊は夫チョイス。
「かぜ と はしる」「かぜ から まもる」「かぜ で とぶ」のように、「かぜ」を軸に、助詞47語分を絵と文で紹介してゆく。
娘は同年代に比べてことばがゆっくり。助詞を区別するどころか、そもそもまだ助詞が入っていない状態でこれを読んでもむずかしいんじゃないかなあ、と思っていたのだけれど、理解するしないはさておき、とりあえず意外なことに、最後までじっと聞いてくれることが多かった。終わってから「もっかい!」とリクエストがあることも。
五味さんの魅力的な絵と色づかいでいろんな動物たちがどんどん出てくるし、つなぎの言葉の使い分けがどう、とはわからなくとも、「絵」と「ことばの響き」に興味をもったのかもしれないなあと思う。リズミカルな短文でどんどん新しい絵に切り替わっていくので、飽きる間もなく楽しいのかもしれない。
もうちょっと文章でいろいろしゃべれるようになってきたら、もう一度改めて、いろんな言葉図鑑シリーズを読んでみたい。言葉づかいのちがいに「なんで?」と質問攻めにされて、はたして親が答えられるかしら(笑)。
『とうさんはタツノオトシゴ』(エリック・カールさく、さのようこ やく/偕成社)
あくまで個人的に、『はらぺこあおむし』が春に読みたいエリック・カールなら、『とうさんはタツノオトシゴ』は夏に読みたいエリック・カール。
水のなかが舞台で、タツノオトシゴはもちろん、他にも魚たちがいろいろと出てくるので、そのようすをイメージしながら読むにはやっぱり夏がぴったりかな、なんて思う。
それに一番特徴的なのは、絵本の中に、ふつうの紙だけではなく、透明なプラスチックシートに絵が印刷されたページが何度も出てくるところだ。
たとえば左側のページに”かいそうのかげに たくさん……”と書いてあり、その右のページは、透明なシートに海藻の絵だけが印刷してあるページ。さらにその次のページはまた普通の紙だから、透明のページの海藻越しに、向こう側に「何かがいる」のは見えるのだけれど、はっきりとはわからない。
そこで「なにかな……?」なんて言いながらその透明ページをめくると、隠れていた魚が見える、というわけだ。そういうしかけ的な要素も楽しいし、単純に、「絵本といえば普通、こういう紙でしょ」と思い込んでいるところ、いきなりつるつるの透明シートが差し込まれていたりすること自体がもう楽しい。娘も熱心にそのツルツル透明ページを触っていた。
ストーリー自体は娘にはまだちょっとむずかしくて、全部は理解できていないかなという印象。でも絵は美しくて興味をひくし、早いうちに買っても成長にあわせて長く楽しめる絵本になるんじゃないかなと思った。
いや、というか、タツノオトシゴは母じゃなく父がお腹のなかで卵を育て、出産に近いことをするのも父の方だなんて、この絵本を読むまで知らなかったよ。おもしろいなあ。なんでそう進化したのか、調べてみたい。
『たいようオルガン』(荒井良二/偕成社)
前回までに紹介してきた荒井良二さんの作品とはまたちょっと違ったタッチで描かれた絵本。ひとことでは言い表せない、ふしぎな魅力にあふれてる。
素人のいち読者として、感じた第一印象を率直に言ってみるなら、なんというか、「ハイパーグレードなこどもの落書き」みたいな感じだ。……いや、ダメだ、全然ことばでその魅力を伝えられる気がしない。完敗だ。もうこれに関しては、実物を見ていただくしかない。
それでもなんとか説明しようとするなら、見惚れるような色づかいの芸術的な背景の中に、鉛筆のようなボールペンのような細い線でごちゃごちゃと、雑多な要素が次々に描き込まれているような感じなのだ。そのどれもがいきいきとしていて。なんだろう、すでに完成されている絵なのに、ライブペインティングを見ているような感覚になってくる。
そしてそれらの雑多な絵の横には「はたけ ある」とか「ちょうちょ いる」とか「やさい いっぱい」とか、わざわざ手書きの文字でごにょごにょっと、それらがメモされているのだ。
ページのなかの情報量がとても多い。読んでいるうちに、わたしも娘も「うし、いる!」とか「めえめえ、いる!」とか絵のなかのいろんなできごとを発見したくなってくる。ちなみに娘はちょっと顔のいかつい牛を指さし、「オニ いる!」と言っていた(笑)。
ちょうど娘は二語文をしゃべるようになってきたころなので、この絵本の文章はそういう意味でも、いま読んでいるととっても愛おしいのだ。雰囲気を伝えるために一節をちょっとだけ。
”たいようオルガンたいようオルガン
ゾウバス はしる はたけ ある ウシ いる ヤギ いる
やさい ある くだもの ある
のりたい ひと て を あげて
どうぞ どうぞ ゾウバスはしる”
──『たいようオルガン』荒井良二 より
とにかく、いろんな発見のしがいがある一冊。よくよく見てみると、ああ、ここは折り紙とか、紙に印刷した写真を切って貼ったのかな?とか、あ、このヤギの横に描かれてる点々なんだろう、ヤギの糞かなとか(笑)、どんどん新しいことが見つかって、ずっと見ていられる。
わくわくと楽しさがぎゅぎゅっと詰まった絵本。
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さあさあ、今回はこのへんで。
ちなみにtwitterでもつぶやいたのだけれど、福岡で2007年から毎年夏にやってる『絵本ミュージアム』が、絵本好きには天国なので、親子で夏に福岡に来ることがあれば立ち寄られることをおすすめしたい。
今年のようすはここ↓から見られる。このたんたんとした絵本noteをここまで読んでくださるような奇特な方には、ぜひとものぞいてみてほしい。
それではみなさん、夏バテにはご注意を……。
※以上、過去note(2019年8月2日)より転載