しんしんと冷える日には、かんかんに熱いラザニアを。
いっそ雪でもふってしまえばわかりやすいのに、そこまではいかない、ただただ冷え込む日というのがある。
その日はあいにくカーディガンを忘れて、ウールコートの大きく開いた袖口からはぴゅうぴゅうと風が入った。
芯まで冷え切ったからだを、どうにかして温めたい。いつもの定番は鍋やうどんなのだけれど、最近は家でもしょっちゅう食べる。せっかくの外食だし、今日はちょっと違う顔に出会いたい。
喫茶店のメニューをひらく。ハンバーグ、しょうが焼き……。うーん、悪くはないけれど。そのまま目をすべらせて、小さな写真に目が止まった。
ラザニア。
しかも“熱々のミートソースがたっぷり!”とある。そうか、熱々の。これしかない。
万が一ぬるいものがきたらこのテンションをどうしてくれようと思ったが、運ばれてきたラザニアは期待を裏切らない熱々ぶりだった。皿の縁で、チーズがまだぐつぐついっている。
ふーっ!と息を吹きかけ、ほっ、ほっ、と口の中で転がす。うっかり冷まし足りずに飲み込んだら、のどが焼けるくらい熱い。でもこれぞ、私が求めていた熱々であるぞ。
熱々だ、熱々だ、と脳内で繰り返しながらひたすらに頬張っていたら、冷める間もなくあっというまに空になった。そんな熱源を抱えていたのは忘れたような顔をして、冷たくなったグラタン皿がテーブルの上でしんとしている。
今週末は、もう少し冷えるらしいです。
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※この文章と写真は『At your own pace』管理人が運営するInstagram「もぐもぐエッセイ─食と暮らしと」のバックナンバーです。@mogu2bunにて、食べものや暮らしにまつわる400字or600字エッセイ等を投稿中。