言わずとしれた大人気絵本、『かばくん』に、続編のような1冊があること、知っているだろうか。わたしは最近まで知らなかった。
それがこちら、『かばくんのふね』(岸田衿子さく、中谷千代子え/福音館書店)。
表紙は、赤い背景が印象的だった『かばくん』と対をなすみたいに、こちらは青一面の背景です。
ぺらり、と最初のページをめくると、ああ、いたいた!
かばくんと、こどものかばくん、かめのこ、そして男の子の姿が描かれている。
そうしてちょっと嬉しくなって、お話を声に出して読んでみれば。
くもだ くもだ
いままで みたことのない くも
かばくんより おおきい
ずっと おおきい くも
この言葉のリズム感。他にもたくさんあるようで、でも、ない気がする。この独特のリズム感の言葉と絵があわさって、「ああ、たしかにあの“かばくん”だ!」と確信する。
『かばくん』では別に「くもだ くもだ」なんて言っていないし、派手な決めゼリフなんかがあるわけでもない。それなのに、たった見開き1ページの絵と言葉だけですっと世界に引き込んで、この上ない安心感に包んでくれるこの感じ、いったいなんだろう。
ああ、ほんとうにあの「かばくん」の世界だ、と。
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その安心感は、そのあともずうっとつづいてゆく。
いや、冷静に考えると、お話としてはその後動物園が洪水になって、状況としてはパニックなはずなのだ。
でも、「のせてくれ かばくん」と、キリンやカンガルーの子を託されるときの、かばくんの表情を見よ!
最高だ。
慌てる他の動物たちに対して、かばくんはまったく動じてなくてかっこいいのだが、その絶妙な表情はぜひ実際の作品で見ていただきたい。
かばくんの、安心感たるや。
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そして『かばくん』と同様に、布地やキャンバスの質感が生かされた絵が、とても味わい深くて好きだ。
特に
「おーい まって」
「あ まだ いたのか」
のページで描かれている水の表現とか、
最後の見開きで
ねむい ねむい かばくん
ねむい ねむい ねむい かばのこ
「おやすみ」
と身を寄せている、かばの親子の肌の感じとか。
やさしくて短い言葉と、シンプルなストーリーだから、さらっとすぐに読み終えてしまうこともできる。でもページをめくるごと、一つひとつの絵をじっくりと眺めていたくなるのだよなあ。
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前作の『かばくん』のように、ガバッ!と口を開けるような、大きな盛り上がりはないかもしれない。こどもにウケるという意味では、やっぱり『かばくん』は強い。
ただ本作はそのぶん心穏やかに(洪水は起きてるんだけど動じない)、かばくんの世界観に浸れる1冊。
大人こそしみじみ浸れるかもしれないし、『かばくん』を通して、かばくんの住む動物園が大好きになった子どもたちにも、ぜひともセットで読んであげたいなと思った。