棚オーナーをしている棚貸し書店でお店番をしていた日、せっかくだから自分も他の棚から買っていきたいなあ……と見ていて、見つけた1冊。
大きな書店では見かけない、シンプルでZINEのような佇まいながら、表紙の紙や手描きの文字、イラスト、それらの配置、文字の入れ方や余白の感じがとても洗練されていて、それでいて温かみににあふれた洗練さだったものだから、なんだかとても惹かれてしまった。
その棚に並べられていた「本と生きよう!読書運動」発行、おやまあきこさんの作品のなかでもこの1冊にしよう、と決めたのは、「あとがき」の一文に目がとまったからだ。
“「すなどけい」のおはなしがうまれた時、そこにいたのは1ぴきのねずみとともだちのねずみだけでした。
しばらくしてから、そこに「ちい」という名前のちいさなねずみがあらわれました。”
(『ちいとお日さまのひかり』文:おやまあきこ、絵:片山小百合、発行:本と生きよう!読書運動 p46より)
これを読んだとき、ああ、おはなしの始まりって、そうだよなあ、と懐かしいような感覚を覚えた。
おはなしの始まり。その世界がその世界として歩きはじめて、新たなだれかがそこに登場して、少しずつ、少しずつ、広がってゆく感じ。
本としてのお話が終わっても、その世界ではずっと、続いてゆくような。
そんなあとがきを残す方のお話を、読んでみたいなと思った。
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実際のお話も、その本の佇まいに寄り添うように、やさしくて、しずかで。
大きな事件が起こったりするわけではなく、「1匹のねずみ」と「ちい(ともだちのねずみの息子)」のやりとりや、その生活の一部が描かれていく。
読み終えて、そんな2匹の時間をちょこっと、おすそ分けさせてもらったような感覚になっていた。
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そのなかで、「ちい」のセリフで個人的に印象深かったのはこんなセリフ。
“「ぼくは、父とは似ていないんです。
父は、新しいことが好きなんです。いつも同じことをしていたとしても、新しく感じるようなちょっとした工夫をして、そのときそのときが新しくなるんです。
でも、ぼくは、何でもくりかえしくりかえし同じことをずっと続けるのが好きです。
新しくなくてもいいのになと、いつも思っています。
だから、父がちょっとした工夫を持ち出すたびになんだか嫌な気持ちがしてしまって、そうすると、いろんなことがちゃんとできなくなってしまってこまっていたんです。」
(『ちいとお日さまのひかり』文:おやまあきこ、絵:片山小百合、発行:本と生きよう!読書運動 p19-20)
特に、「新しくなくてもいいのになと、いつも思っています」のところが自分の心にはひびいた。
たぶん、私の中にも根っこではいろんなことに対してそう思っている節がある。
それでも世の中の主流や流行りや、物事の流れてゆく速さというものがあって、そのなかにいると自分も、いつの間にかそれに無理やりあわせようとしていたり、まねっこしてみたり、そういうところもあって。
そう思うと、ちいは自分のことがちゃんとわかっていて、こんなにはっきりと言えて、立派だなあ、なんて思ったのでした。
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厚さにして、数ミリの手のひら童話。
ポシェットに入れて散歩にでかけて、芝生に寝っ転がりながら読みたい、そんな1冊。