本日は、言わずもがな大好きな荒井良二さんの1冊より。
『ぼくはぼくのえをかくよ』(荒井良二/学研教育出版)です。なお、荒井良二さんや長新太さんなどの偏愛絵本についてはどうしても書きながら好きがあふれてしまうので偏愛テンションでお届けしますが、あしからず。
もうね、まずはやっぱり表紙がいいよね。この表紙だけでごはん3杯はいける。ずっと眺めてられる。
っぱーーん!と目に飛び込んでくるショッキングピンクのふねに、なんだかいろいろ詰め込まれていて、よくみると鉛筆の手描きで「おもいにもつ」とか「めずらしいはな」とかね、書かれている。もう好き。大好き。
下の窓から顔をのぞかせている子たちも、いろとりどりで。ひと、だけじゃないのもいい。というか船も目があるしね。それで、ぐいぐい進んでる。進んでる、ってのが、そのまっすぐ前を見る目と、水のシャーッって感じからつたわってくる。
楽しいが詰まってる。
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でね。その楽しいが詰まってる!!にぎやかMAX、たのしさMAXの表紙から、ひらいたときの静けさがまた、好き。
1回、黄色の無地の紙が出てきて、そこからありふれた、ふつうの白い紙が出てきて。白地に、黒のペンで線を描くシーンからはじまるんだ。
“ぼくは せんを ひいて みた。”
そして次のページで、ただの白い背景に黒の手描き線が引かれた絵に、添えられた言葉が
“うみみたい?
そらみたい?
だいちみたい?”
って。
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そこから先は、その世界が、文字どおり色づいていく。
世界が、広がってゆく。
それをことこまかに説明するのは野暮なので、もう実物を見て、としかいいようがないのだけれど。
でも、白い背景に一本の黒い線、からスタートして、広がってゆく世界の、なんと豊かで鮮やかなことか!
ほんとうにそのなかにはこういう人たちが住んでいて、船にはいろんなお客さんがのっていて、よくわからない生き物(でもそのせかいでは、きっとふつう)がいて、まちをあるいたり、ごはんをたべていたりする。
“ぼくが かいた ききゅう とぶ。
ぼくが かいた えの なかを とぶ。
とぶ とぶ とぶ!”
のところの、ききゅうの表情は、ぜったいに生きてるよね。“とぶ とぶ とぶ!”のリズムと合わさって、迫ってくるもの。ぐんぐんぐんって。
個人的には、おおあらしがやってきたときに、
“こんなふうにやすむんだよ!”
って、ききゅうや、きしゃや、ふねが、家のなかで休んで、カードゲームをしているシーンがとても好き。この世界では、そうなんだよ。
乱雑に積まれた「ほん」があったり、部屋の隅に「まき」があったりするのも好きだし、湯気を立てているカップが、もっと小さな湯気を立てているカップを持って、何か飲んでるのも大好き。
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そしてさいごは、つづいてゆくんだよ。そのせかいは、どこまでも。
“ぼくは ぼくの えを かくよ。
ずっと ずうっとね!”
なんてすがすがしいんだろう。
おとなになっても、そう生きたいよ。
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おとなはそんなふうに、メッセージ性みたいなものを見出そうとかしてしまうけれど、この本は、それはそれとして、単純に見ていても楽しい気持ちになるのがとても好き。
5歳の娘も、ページをめくるたびにぱぱん!と世界が広がってゆくのを、楽しそうに見ていた。
そしてやっぱり、ちへいせん、なんだなあ。
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・・・最後に、ざっと検索して見たかぎりだと、新刊はどこも売り切れのよう。復刊してほしいなあ。いまの時代にこそ、こどもたちにも読んであげたいし、おとなにも必要なほんだと、思うのだけれど。