この本を初めて手にとったのは、娘がまだ0歳のころだった。
わたしははじめての育児にへろへろしていて、そりゃあもうへろへろしていて、へろへろ以外なにものでもなかった。
(ちなみに、荒井良二さんといえば『そりゃあもういいひだったよ』という絵本もあって、むしろわたしが荒井さんの絵本にはじめて出会ったのはこっちである。これもいつか書こう)
まあそんなわけで、そりゃあもうとにかくへろへろで、そんなときに図書館で絵本を探していてたまたまこの本を見つけた。あ、荒井良二さんの本だと思い、ぱらぱらめくって、ああきれいだな、と思ってぼんやりと借りたのだと思う。
そうして家に帰って、うっとりと読んだ。
読んだというか、うっとりと眺めた。
もちろん子にも読み聞かせした。たとえ0歳にはよくわからないとしても、荒井さんの描く色彩の美しさとか、ダイナミックな筆の運びとか、一冊をとおして吹いている風みたいなものは、感覚としてきっと赤ちゃんにもきもちのよいものにちがいないと、そう思っていたから。
でも正直にいえばたぶん、いちばんは自分のために読んでいたと思う。ひとことでいうと、癒やしていた。へろへろでぼろぞうきんみたいな自分を、そう、あれはたしかに癒やしていたんだな。振り返ると心底そう思う。
そりゃあもう(このフレーズちょいちょいつかっていく所存)授乳しながら、つかの間の穏やかなひととき、この絵本を傍らに置いて、そりゃあもう、そりゃあもう、すみずみまでうっとりと眺めたのです。
ああ、美術館だ。
当時のわたしの心境をひとことで言うなら、たぶんそれだ。
1ページ、1ページ。
ページをめくるごとに、美術館の中で、1枚、1枚、立ち止まって絵を眺めているような気分になった。心が洗われるってこういうことだ。そう思った。
ああ、ひさしくそんな体験、していなかった。
ここは美術館だ。うつくしいな。うつくしいな。
1枚1枚の大きな絵が、ほんとうに美しくて、きれいで。その中の世界を、筆の跡を、なめるように見つめた。ほんとうに、美術館で対峙しているときみたいに。
だからわたしは、とくに「はじめての育児で疲れているかもしれないお母さん」にプレゼントするとき、この絵本を選んだりする。
もちろん「ちっちゃいころから、いろんな色彩にふれるのいいらしいよ」なんて小ネタも添えちゃうかもしれないが、いちばんはお母さんに楽しんでほしいのだ。
自分のために時間をつかっていたあのころを思い出すし、現在進行形で、自分の疲れを癒やしてくれる美しい絵に触れられる。
結局そのあとも手元においておきたくなって、もちろん自分でも1冊購入した。
たぶん一生手元において、何度でも読み返す。もしくは、もし娘が子を生むようなことがあれば、そのときに託すかもしれない。とか書いていて思ったけど、きっとそのときには新しい1冊を送るんだろうな。だって、やっぱり何度でも見ていたいから。
どのページも大好きだけど、川と船のページが、とくに好きです。
夜寝る前に読むと、きれいな気持ちでねむれると思う。風が、ふいているからね。
ためし読みしたい方はこちらから。
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