絵本

この語感はずるい。繰り返さずにはいられない【偏愛絵本紹介】『ゴムあたまポンたろう』(長新太/童心社)

2021年1月9日

うろ覚えだけれど、わたしが「ゴムあたまポンたろう」なる言葉をはじめて耳にしたのは、確か当時0歳か1歳の子を連れて里帰りしていたときだったと思う。実家のリビングでついていたラジオの朗読で、偶然流れてきたのだ。

日本語で生きる人々にとって、「ゴムあたまポンたろう」の語感がもつ威力はすごい。

すごすぎて、おいこら、そりゃ反則だろう、くらいの文句を言ってしまいそう。

だって、ゴムあたまポンたろう。何も知らなくても、立ち止まらせるくらいの力は軽くある。そこになんの脈絡がなくても、とりあえず「ゴムあたまポンたろう?」って口に出して聞き返したくなっちゃうくらいの。

ももたろう、とか、うらしまたろうには申し訳ないが、ゴムあたまポンたろうとの差は歴然だ。

しかもそのラジオ朗読、当時わたしは何か作業でもしながら適当に聞いていたのだと思うけれど、とりあえず、わかったことがある。ゴムあたまポンたろうは、あたまがゴムでできていて、山などにポンとぶつかって、とんでゆくのである。

なんと単純明快であろうか。嘘偽り無く、過不足もなく、正真正銘、彼は「ゴムあたまポンたろう」である。すがすがしい。

絵本としてビジュアルを目にしたわけでもなかったのに、その響きと彼の性質だけで「ゴムあたまポンたろう」はわたしの中に何かを残した。

そうして後に、絵本として「ゴムあたまポンたろう」を目にしたとき、「ああ!」となる。わたしの脳内でこっそり息づいていたゴムあたまポンたろうに、ビジュアルが与えられた瞬間。もう手にとらないわけがないのである。

どきどきしながらページをめくると、まず見開き1ページめでガツンとやられる。

「やまに ポン!と ぶつかると」という軽快でリズミカルな言葉運びと、絵としては空に浮かんで山にあたまをぶつけながら、なんの表情もよみとれない「無」表情にも見える男の子。

なんぞ。

一瞬ですべてをつかませるというか、この世界に引きずりこまれる、この力はなんぞ。長さんマジックである。

そこから先も、ひたすら何かにポーンとあたっては、とんでゆくゴムあたまポンたろう……。

ものすごい見せ場があるというわけではないのに、どこかポンたろうの「これからどこにいくんだろう」みたいな不安のようなわくわくのような気持ちに感情移入しながら、読み手はポンたろうと一緒に浮遊してゆくのであります。

それでいて、色づかいはやっぱりどこまでも鮮やかで、構図もダイナミックで、子どもにもズドーンとダイレクトに届く。パッ、パッ、とシーンも変化があって、子も飽きさせない。動物も、おばけも出てきたりする。

肩のちからがすうっと抜けているようでいて、子どもたちのわくわくもちゃあんと考えていて。そんなところがやっぱり愛される所以なのかなあと、いち愛読者は思ったりしている。

そうして一度知ったあとには、「ゴムあたまポンたろうって絵本があってさ」なんて親しい友人には話したくなってしまうんだよね。そこまで含めて、やっぱりさすがのゴムあたまポンたろうさまなのだ。

 

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