10月22日(日)晴れ
朝、変なテンションで目が覚める。いつもよりちょっと夜更かししたのに、体が遠足前みたいなコンディションにあるのか、アラームよりも早く目が覚めた。
ついにやってきた、文学フリマ福岡の日。
初出店の興奮と日常の家事を回すテンションが噛み合わない、なんだかそわそわする朝。
昼食用にブースで食べるおにぎりを持っていきたくて、朝ごはんも兼ねて混ぜご飯的なものを多めにつくる。小松菜、ツナ、おかか、たまご、ごまを炒めて醤油、みりんを煮詰めたフライパンのなかへ、そのまま白飯3合をどーん。豪快に混ぜる。
朝はその混ぜご飯と、具だくさん味噌汁。なんとなくハードな1日になりそうな予感はあるので、1日分の栄養を入れる気概でもりもりと野菜を投入。ついでにきのこや油揚げも。いろんな旨味が溶け出して、結果おいしくなってくれる。いつだって素材頼みだ。
家族と朝食を食べ終え、自分用におにぎりをつくっていたら、子が「◯◯もおにぎりたべたい!」と言い出す。なぜ子どもはこんなにおにぎりが好きなのだろう。結局、子のおやつ用おにぎりもつくって、アルミホイルにくるんでマジックで顔を描いて渡す。
そんな悠長なことをしているから、最後にはもちろんばたばた。本の詰め込まれた重たすぎるスーツケースをなんとか階下におろし、電車の時刻に追われるように家を出た。
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普段は郊外に住んでいて、天神まで出るのはひさしぶり。
方向音痴には自信があるので、あらかじめ電車の中でGoogle先生に尋ねまくり、指定出口にエレベーターがあるかも確認し、下車。すると私としては奇跡的に、会場のTKPエルガーラホールまで迷わず着いてしまった。GPSはすごい。方向音痴も年数を重ねるとすごい。
8Fにつくと、出店者入場を待つ人たちが大勢いた。隣接ブースで出す予定だった友人を探してみるけれど見当たらない。まだ来ていないのだろうか。
10時、出店者入場。自分のブースへ行くと、なんとお隣の友人はすでに来ていた。その前のボランティア設営から入ったそう。ああ、素敵だ。こういうところに徳の違いがあらわれるのである。
へこんでいても開場時刻は迫るばかりなので、とりあえずブース設営。
初出店なのでいろいろと展示用の小物を買ったけれど、百均で買った折りたたみ式のスタンドがすぐ倒れてしまうタイプで後悔した。養生テープで布に固定してしのぐ。それより50円高いだけのイーゼルはびくともしなかった。妙なところでケチるからこうなる。
それでもなんとか設営完了。
イメージしていたより奥行きがないし(ひとえに自分のチェック不足)、直前にあわててつくったミニポスターはレイアウトがごちゃごちゃしていて、次回への改善はまだまだいくらでもできそうな仕上がりだった。でもまあ、初出店としては十分、十分、と自分で自分のご機嫌をとる。
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11時、参加者の入場がスタート。
少しずつ人通りが増えてゆくけれど、なかなか足を止めてくれる人はいない。まあそんなすぐ売れないよね……とは思いつつ、そわそわする。
しかし開始からほどなくして、声をかけに来てくれたお客さんがいらした。
聞けばその方も書き物をされる方で、私が3年前にnoteで書いた『それでも日々はまわる』の制作過程をまとめた記事を見ていてくださったそう。
「あの記事を見て、『こうやって作れるんだ!』と思って踏み出せたんです」と笑顔でお伝えくださって、なんだか感無量だった。
3年の時を経て、直接、こんな出会いがあるとは。この3年近くほぼSNSからも離れて表面的には消えた人になっていたはずだけど、何事も無駄じゃないんだな……としみじみした。
その日初めてのお客さんが、そんなエピソードつきでエッセイを1冊お買い上げくださったこと、とてもとても嬉しかった。
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その後は、SNSで最近知り合った方が3種すべてを大人買いしてくださったり、以前の活動から知っていてくださった方が「おひさしぶりです」と遊びに来てくださったり、文学関連ではない文脈で知り合った方も出店されていて、挨拶に来てくださったり。いろいろなワンダーに出くわした。
かと思えば、たまたまブースに足を止めてくださって、サンプルの立ち読みをきっかけに買ってくださる方も、予想よりはるかに多くいらっしゃった。
さらに、「Webカタログを見て気になっていて」とか、「見本誌コーナーで読んで来ました!」と商品指名で買いに来てくださる方も予想以上に多かった。ぱっとブースに来て、迷いなく「これください!」って指さしてもらえること、こんなに嬉しいなんて知らなかったよ。
なかには、「今日、姉は来れなかったんですけど、『Webカタログ見て欲しいのあったら教えて』と姉に言ったらこれ、と言われたので、買いにきました」と来てくださった妹さんも。
そ、そんなこともあるのか……! 更新していてよかったWebカタログ。
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自分のブースの売れ行きを簡単に振り返ると、圧倒的に日常エッセイが1位、ちょっと開きがあって短歌の歌集、僅差で写真ZINE、の順だった。やはりエッセイの間口は広い。
写真ZINEはフルカラーなこともあり、販売価格も3冊のうちで一番高く、さもありなんという印象。ただ歌集はエッセイより400円も安いのに、それでも大差でエッセイのほうが売れる。
昨今は短歌ブームだと言われて久しいけれど、やっぱり読者の広さを考えると、エッセイ>短歌なのだなーと実感。立ち読みをご案内するときの反応を見ていても、短歌と聞くとそれだけで「むずかしい」「自分にはわからない」と感じてしまう方も結構いらっしゃるのだなあ(文フリに来られる方々、という前提があっても)と思ったりした。
ただ今回、私は「ノンフィクション/その他」のカテゴリにいたので、「詩歌」のカテゴリ付近だと傾向は違うのかもしれない。
でも個人的には、自分みたいに定まらない雑多な表現をするひときっかけで気づいたら短歌も興味持っちゃった、みたいな人が増えたらいいな、という思いもあったりするので、たぶん自分は詩歌カテゴリよりはこちらなんだろうな、という気もする。「専門」の人じゃなくても詠んでもいいんだなー、と思えるものであってほしい。短歌。
ところでそんなノンフィクションブースでの出会いで、特に印象に残っているのは、「結婚、出産、はじめての育児のころに詠みためた歌をまとめました」とミニポスターでご案内していたその歌集を、赤ちゃんを抱っこひもに入れたお母さんがお買い上げくださったことだ。
赤ちゃんをゆらゆらあやしながらちょっと立ち読みしてくださって、エッセイも立ち読みくださって、その後ちょっと迷って(たぶんもともと短歌自体に強い興味はなかったのではないかと拝察する)、でも「まさにはじめての育児で、共感できそうな気がして」ってはにかみながら歌集のほうをご購入くださったこと、心に残った。
万人に評価されなくても、“きっとどこかにいるであろう当時の自分みたいなひとり”に届いたらいいな、と思って編んだ歌集だったので、もしかするとそうかもしれない景色を目の当たりにできるブース販売は、奇跡みたいな場だな、と思う。
ちなみに写真ZINEについては、価格が高いこともあり「1冊も売れなくてもへこまずにいこう」という心構えでいたら、ぽつりぽつりと、でもしっかりと目を見て「これ、ください」と言って買ってくださる方々がいらっしゃって、うれしかった。
母数は少ないかもしれないけれど、気に入ってくださる方は確かに存在していらっしゃるし、そういう方はきっと数百円レベルの値段差は関係なく、買ってくださるのだと実感。エッセイを書くのは自分も好きだけれど、売れるから、間口が広いから、といってそれ以外の好きな表現を切り捨てていくのも何か、自分の中では違うような気がする。めげずにどちらも続けてゆきたい。
もしかすると写真ZINEに関しては文フリのノンフィクションコーナーよりも、他の場所のほうが相性がいいのかもしれない。あとは紙質やカラー/モノクロによる価格設定もまだまだ改善の余地がありそう。いろいろ模索するのも楽しさのひとつ。
まずはやってみて、検証して、また前に進む。のろのろとでも、進んでゆこう。
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他のブースもゆっくり見たかったけれど、時間帯で大きな波があるというより、ずっとぽつりぽつり売れるような感じで、出会いを逃したくない気持ちが出てきてしまい、なかなか離席する勇気が出ず。
タイミングを逃しているうち、あっというまに終わり間際になってしまった。ああ、初出店の要領の得なさよ……。
せめてお近くだけでも!と思い、おなじ「お」並びのブースのいくつかにお邪魔して、いくつかの作品を購入させてもらった。
お客さん側になって思うけど、やっぱり顔が見えるのはいいなあ。今も手にとって表紙をみると、そのときその説明してくれていた出店者さんの表情が思い浮かぶもの。
ところでまわりを見渡せば、ひとくちに文学フリマといっても、自分とはまた全然違うジャンルの本をたくさんつくっている方も大勢いるのだなあと気づいた。
でもジャンルが違っても、みなそれぞれに何か表現したい思いを抱えて、時にうなりながら、粛々とものづくりしているのだ、きっと。そう思うと、2フロア全員の方と友達になれるような気がした(なってくださるかはまた別の話)。
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ブースの片付けを終え、隣接ブースの友人と天神でカレーを食べて、ひと息。
この後にはふたりとも、関連の読書会イベントに参加することになっていた。
Google上ではちゃんと開始に間に合う予定の時刻にバス停について安心していたら、バスの到着が遅れに遅れて遅刻しそうになる。天神界隈、夕方の交通量を甘く見ていた。
なかなか進まないバス内でそわそわするふたり。
バスから降りると、猛ダッシュでブックバーひつじがさんへ。
軽くなったとは言ってもまだそれなりに重いスーツケースをごろごろ……じゃないな、「ガ―――ッッ!」と引きずりながら、全力で走る。もうあかん、息が。苦しい。
オンタイムか1、2分遅れか、文字通り、ぜいぜいと息を切らしながら会場にすべりこんだ(す、すみません。今度からはもっと余裕をもってうごきます…!)。
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薬院にあるブックバーひつじがにて開催されたイベントは、『ふたりのアフタースクール: ZINEを作って届けて、楽しく巻き込む』(太田靖久、友田とん:著/双子のライオン堂)の読書会。
『ふたりのアフタースクール』は、双子のライオン堂書店さんで行われていた小説家の太田靖久さんと作家・編集者の友田とんさんによる「作ったZINEを本屋に売り込みする話」という連続対談イベントが本になったもの。
今回は著者のおひとり、太田靖久さんをお招きしての読書会だった(ちなみに太田さんは小鳥書房さんのブースで、友田さんも「代わりに読む人」のブースで、それぞれ当日の文学フリマ福岡にも出店されていたのでした)。
読書会って、トーク側と参加側が分かれてのセミナーみたいな感じだろうか、とぼんやり想像していたら、みんなでフラットに机を囲んで、対話しながら進むとってもアットホームな会だった。
そこでやりとりされた話の詳細をここで書くことはしない。
でもとりあえず、場に集った一人ひとりが、ZINEや書くことにいろんな思いを抱えていて、それぞれそれにまつわる聞きたいことや思いがあって、その声に対して太田さんが一つひとつ、丁寧に向き合って言葉を返してくれて……というその場自体がとても心地よかったし、とても貴重だった。
太田さんのお話の端々に、いま自分が疑問やもやもやを抱えている部分に対して「ああ、それでいいんだ…!」と思わせてくれるような金言があって、なるほどと思ったり、励まされたりした。
メモしたそれらの言葉たちを、翌日ポストイットに書き出して、とりあえずいつも仕事するデスクの目の前に貼った。何度でも見る。
イベント終了後、参加者さん同士でも飲みながら少しおしゃべり。
ただの「本好き」が集うだけでも貴重なのに、ZINEづくりやそういった表現に興味がある、かなり狭めの共通点のある人たちと、ゆっくり話せることはさらに貴重で、うれしかった。
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コロナ禍に初めて申し込んでいた文フリが開催中止になって、その他いろいろな理由を言い訳に、離れてしまっていた表現活動。
でも、やっぱり、形を変えながらでも表現を続けていきたいなとまた動き始めたタイミングで、今回の文学フリマ出店や読書会があって、たくさんの方からたくさんの言葉をもらって。勝手に背中を押していただいたような気持ちになっている。
たいていのことは思い通りになんていかない。蛇行したり戻ったりもたくさんするけれど、それでも自分なりに歩んでゆきたいなあ、と改めて思えた1日だった。
文学フリマ福岡や読書会で出会ってくださった方々、どうもありがとうございました。
きっとまた、どこかでお会いできることを。