ロングセラー、かつ自分が好きな絵本、と考えたときに5本の指に入ってくるだろう1冊が、この『かばくん』。
あれは子どもが2歳くらいのころだっただろうか。動物園でかばがスイカを食べるシーンを目の当たりにしたのを機に、我が家にちょっとしたかばブームが訪れた。
そのとき、図書館でかばの絵本を探していて見つけたのが『かばくん』である。
これは自分が子どものころに読んだ記憶があったわけではないのだけれど、表紙を見て思わず「なつかしい」と思う。タイトルの書体とか、作者名の書体から、なんとなくレトロさを感じとる。落ち着く。あったかい。
なにより、かばくんの素朴さがよい。
こてこてと可愛らしくデフォルメされるわけでもなく、動物園で見たかばに忠実に、けれどもキャラクターとしての愛らしさもどこか漂わせながら。しずかに、しかしどっしりと抜群の存在感でたたずむこのかばくん、最高なのだ。
落ち着く。
ストーリーは、動物園におけるかばくんの一日を追うもの。なにか大事件が起きるわけでも、冒険に出かけたりするものでもない。なんなら結構寝ている。
落ち着く。
そして、絵が好きだ。
キャンバスというのだろうか、布目がはっきりと見える。その上を塗りつぶしたり、こすったり、削り取ったりした形跡が見える。その動きのある感じがとても、なんというのだろう、いきいきとしていて、好きです。
特にかばくんの肌の質感が、絶妙だなあとうっとりしてしまう。布目のざらざらや、グレーだけではなくて、水色や緑色を塗り重ねている感じとか、削ったり、ひっかいたような線があるところとか。
なんだろう。この布地の感じを自然とかばくんの肌にいかしちゃう発想が、個人的にはたまらなく好きだ。
そして一番の見せ場はやはり、「うわっ たべちゃった」と言ってかばくんがキャベツを丸ごと口の中に入れちゃうシーン。
これ、我が家は直接動物園で同様のシーンを目撃していたので、子どもの反応もすこぶるよかった。
そしてこのシーンのかばくんの目がまた結構リアルというか、こびていなくて好き。なんというか、勝手に動物の本能を感じてしまう。基本ねむたいみたいな描き方なのに、ここのシーンは目を「くわっ」と見開いていてさ。
穏やかで、心なごみ、落ち着くお話でありながら、リアルにも忠実な『かばくん』。やっぱり長きにわたって愛される絵本には、愛され続ける理由があるんだろうなあ。
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