絵本

子どもが好きなものてんこもりだもの。【絵本紹介】『えんそくバス』(文:中川ひろたか、絵:村上康成/童心社)

2021年1月11日

子どもが生まれて図書館で絵本をどっさり借りはじめたとき、最初のうちは絵本作家さんについてなんにも知らなかった。だからなんとなく雰囲気で、「あ、おもしろそうだな」とピンときたものを借りて帰っていた。

でもそれを何度か繰り返していると、「あ、この名前、前も見た気がする」ということが増えてくる。そして次第に「あ! この本もあの人か。よく見るなあ」となってくる。

自分が手にとりやすい絵本作家さんというのを、じわじわと覚えてくるのだ。

ところで、自分が手にとりやすい絵本というのは、親である自分が感覚的に好き、というのももちろんそうなのだけれど、もうひとつの要素として、「あ、これ子どもが好きそう」というアンテナも自然とはたらいている。

そして「あ、わが子これたぶん(ぜったい)気に入るな」と思って手にとる絵本の中で出会い、頻出になり、自然と覚えていった絵本作家さんのひとりが、中川ひろたかさん。

この『えんそくバス』だってそうだ。

失礼ながら、これも中川ひろたかさんの本を探そう……と検索して出会ったわけではない。出会いとしては、図書館の本棚でたまたま『えんそくバス』なるタイトルに目をとめ、まず「あ、子が好きかも」とピンと来て手にとったのである。

しかし今となっては、背表紙や表紙に「中川ひろたか・文」という文字列を見つけると、タイトルを見たときの「好きかも」はほぼ確信に変わる。

そうして帰って実際に子に読んでみれば、もうそれはまさに、思ったとおりというべきか、ときには想像以上に、すこぶる反応がよかったりするのだ。

この『えんそくバス』は、3、4歳くらいの、保育園や幼稚園に通う子がいるならまず読んでみてほしい1冊。

その名のとおり、園でえんそくへ行くのだけど、なんと園長先生が寝坊して……というストーリー。

いや、まず初っ端からして、園長先生が寝坊するってのが最高だろう。

ふだん偉そうな大人がちょっとドジしちゃうとか、子どものほうがしっかりしているとか。そういうのに、子どもってほんとうに敏感だよね。

わたしも普段の生活で何かちょっと間違うと、当時3歳の子に「ママ、まちがったねえ」って何度も言われたりしたもんだ。うれしそうに。

んでもって、バスにのってる場面には、1ページ見開きでそれぞれ、「みぎにまがりまーす」、「ひだりへまがりまーす」、「おっと、がたがたみちでーす」となっている。

うーん、なんともきっぷのよいページわりふり。

このシーン、もちろん、読み聞かせにうってつけなわけで。

親の膝に子を乗せていれば、膝ごと体を右へ傾けたり、左へ傾けたり。さらにはがたがた揺らしたりすれば、子はキャッキャと笑ってくれる(かわいい)。

そして離れて読んでいても、読み手側が絵といっしょに一緒に右へ体を曲げ、左へ体を曲げ、がたがたみちのシーンでは体をゆすって読めば、子もにこにこ嬉しそうに自分も体を動かして笑ってくれたりするのだ(もうほんとにかわいい)。

最近知ったのだけど、実は中川ひろたかさん、日本で最初の男性保育士として、保育園で5年間はたらいていたという経歴がある。

わたしはこれを知って、なるほどなあ!となんだかいろいろと勝手に納得してしまった。

この『えんそくバス』ひとつとっても、「遠足」というモチーフ自体、そして園長先生が寝坊しちゃったり忘れ物しちゃうという視点、さらには先述したバスのシーンが読み聞かせで楽しめる構成になっているところにいたるまで、子どもたちが好きなことのオンパレード。

それが、保育士経験が背景にあると聞くとなんだかストンと腑に落ちる。

子どもたちが好きなこと、よく知っているんだなあ。

ところで、ここまで中川さんのことばかり書いてきたけれど、わたしがこの絵本でもっとも推したいシーンは、実は、文字がない。

もうそのシーンは、とっても最高なので、この絵本に出会ったらぜひ、見てみてほしい。中盤にある、あのページ。

読み聞かせしていて、わが子がもっとも反応するのも、実はこのページだ。

絵を指さしながら、「これ、してみたいねー!」と何度も言う。ページをめくる速度が早すぎるものなら、戻れと指示される。その絵をもっとじっくりと見たいのだ。そしてたぶん、その中にいる自分を想像したいのかもしれない。

そう、この「中川ひろたか・文」「村上康成・絵」というタッグも、冒頭で言った「ピンときて手にとるうちに自然と覚えた」最強タッグのうちのひと組でもある。

このタッグだと、あとは『こんにちわに』(PHP研究所)なんかも、当時3歳の子どもに読んだときにたいそう気に入って繰り返し読んだ。

最後まで読むと、自然と子どもがまた最初に戻って「もっかい」って読みたくなっちゃうこのおふたりが醸す空気感、なんなんだろう。すっとぼけたような、でも確実にポイントをついてくるような塩梅がたまらない。

ちなみに『こんにちわに』はことばあそびシリーズで、他にもたくさん出ているので、こんど他のも読んでみたい。『ブルドッグ ブルブル』とか『ミルク くるみ』とか、タイトルと表紙絵だけでもうすでに「あ、好きそう」と予感させる。やっぱりすごいなあ。

最後に。

この投稿を書くために検索して思ったけど、中川ひろたかさんの本、今までもめっちゃ読んできた!と思っていたけど実はまだまだ全然、読んでいないもののほうが多いんだなと気づいた。なんてこと。氷山の一角の一角だ。

それはむしろ、嬉しい発見かもしれない。

今度は「この作者の」「このタッグの」で検索して、探しにいってみようかな。

 

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