日々の思考 書籍

『あしたから出版社』(島田潤一郎/筑摩書房)読書記録

2022年12月12日

読み終えて、会社のサイトも見にいった今となっては「なぜ今まで知らなかったんだろう」と思うのだけれど、恥ずかしながらわたしは夏葉社さんを知らなくて、まちの本屋さんをブラブラしていて偶然この本に出会って、今年のうちに夏葉社さんの存在を知ることができて、ほんとうによかったなあと思った。

『あしたから出版社』は、夏葉社をひとり出版社として営む島田潤一郎さんが書いた随筆。2014年6月に晶文社から刊行されたものが、2022年6月に文庫化されて筑摩書房から発行されたらしい。

最初に手にとったのは、タイトルの『あしたから出版社』と、「ひとり出版社の舞台裏」という帯のコピーに惹かれたからだった。ハウツーを求めて、というのとは違う感覚だけれど、出版という仕事にはもともと興味があったし、ぱらぱらとめくってエッセイ調なこともあり、読み物を通して、出版社立ち上げの背景が読めるのはとてもおもしろそうだと興味をもったのだった。

読み終えて思うことは、私が最初何気なく手にとったときに予想していた内容とは、結構大きく路線が違ったなということだ。それはまったくネガティブな意味じゃなくて、どちらかというと予想よりもはるかに好きな読み物だったし、予想よりもはるかに、いろんな要素が詰まっていて全部のせみたいな贅沢感のある本だった。

予想していたのはきっと、「こんな決意で、こんな手順で、いろいろ苦労はしていたけどこんなに行動して出版社をつくって軌道にのせてきました」みたいな内容だけだったのかもしれない。そのときはそんなふうに思っていなかったけど、いま考えるとそういう、どこか薄っぺらいものだったのかもしれないと思う。

でも実際は、これは生き方の話だった。ひとりの人間の話だった。

特に2部の『よろこびとかなしみの日々』を読んでいる途中から、わたしの予想は大きく裏切られて、過去の恋愛話を読んでいるときは、あれ、わたしはいったい何を読んでいたのだっけと思ったりもした。と書くとなんだかやっぱりネガティブに伝わってしまうかもしれないのだけれど、もともとそういう日々をつづるエッセイは大好きなので、ただただ「いい方向に予想を裏切られたなぁ」という思いで楽しみながら拝読した。

夏葉社のことをまったく知らなかった私のなかに、島田潤一郎さんというひとが流れ込んで、結果、夏葉社さんのつくるものを全部読みたいと思った。会社のサイトにアクセスしたら、『あしたから出版社』に書かれているもの以降もたくさんの刊行物があった。これからまちの本屋さんで、1冊1冊少しずつ、買い集めてゆきたい(もともとまちの本屋さんは好きだったけれど、本書を通していっそう、まちの本屋さんで本が買いたくなった)。

それから、わたしのなかでは絵本の文脈が大きかった和田誠さんについても、本書を通して装丁者としての面を知り、とても興味をもった。読み終えてから気になって調べていたら、奇しくも今週末、18日まで北九州で和田誠展をやっているというではないか。

しかもテーマがまさに、「和田誠の多岐にわたる仕事の全貌に迫る初めての展覧会」というではないか。北九州、我が家からはなかなか距離があるし、今週のスケジュールはすでにきびしいけれど、今ならまだ間に合うと考えると、どうしても行きたい気持ちをおさえきれない。これはもう、行くんだろうな……。

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