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歌集『ここでのこと』(谷川電話ほか/ELVIS PRESS):読書記録

一時期とても短歌が好きで、自分も詠んでいて、でもいろいろとあって遠ざかってしまって、一度遠ざかるとなんだかあのときのような気持ちで触れられないことに罪悪感めいたものを感じて、ますます遠ざかる、みたいなことを繰り返したりして。

でも夏に東京出張へ行ったとき、たまたま葉々社さんというちいさなまちの本屋さんへ立ち寄る機会があり、ふと目に入ってどうしても気になり買った1冊。

特に旅先でまちの本屋さんへ入るとどうしても「ご縁だ」みたいな気分も高まって、ピンときた本を買ってしまうよね。

そんなわけではるばる連れて帰った『歌集 ここでのこと』。

装丁というか、サイズ感や紙質も含めた佇まいがとても好きなのだけれど、画像は勝手にアップできないので、ぜひ発行元のELVIS PRESSさんのこちらのページからご覧ください。とても、とても素敵なのですよ。

ご覧になりましたか。その、下の紺色の部分が太い帯のようになっていて、別の紙なんです。ちょっとざらざらとした質感もよく。そして金色の部分が箔押し。さらに線画。うーん、好きです。ものとして持っておきたくなります。

ということで帰宅後、卓上の本置きスペースに置いておくだけでも満足してしまって、日々の仕事に追われたりもして、短歌の世界に浸る資格もない気がして、半年以上もちゃんとは開けずにいたのでした。

『歌集 ここでのこと』は、愛知県文化芸術活動緊急支援金事業の一環として、愛知県に縁のある歌人に「ここ」で生まれた歌を制作してもらったものだそう。

参加歌人は、谷川電話さん、戸田響子さん、小坂井大輔さん、寺井奈緒美さん、辻聡之さん、野口あや子さん、千種創一さん、惟任將彥さん、山川藍さん。発行元はELVIS PRESSさん。

いざ、勇気を出してひらいてみたら、複数歌人のアンソロジーということもあってみな、思い思いに詠まれている空気があって、すこし気持ちがほぐれたのでした。

そうだ、それでいいんだよね、ということを思い出させてもらった気持ち。

個人的に好きだったものを少しだけ引用します。

“旅先でTシャツを買う買わないの話をしたいから旅をしよう?”
(p16,谷川電話)

定番のおみやげTシャツってなんでああいう感じなんだろうなとか。そういえば家族のお土産にTシャツをもらって、うん、となった記憶を思い出したりとか。「えー、いらないよー」「いやいやほら、記念にさ」みたいな会話、したいね。したい。

“ミニスカートを履いたおっさんネタにしてバズった夜更けに染みるネクター”
(p48,小坂井大輔)

ひりひりする。空虚だよな、と思っていながらも投稿してしまう何かってある。そうありたくないなと思いながらもそういうことをしてしまう、みたいなことってゼロにならない、人間ってそういうものなのかもしれない。ネクター、うちの父も昔よく飲んでいたなあ。

“スガキヤのフォークスプーンでいつまでもねぎをすくっていたいな君と”
(p65,寺井奈緒美)

すくってたいね。このたった数十字の文字列や音だけで、たいせつな誰かと笑い合いながらあたたかい何かを囲んでいる光景を連れてくる、短歌ってやっぱすごいよ。なんてことのない日常に埋もれている、穏やかで平和な、かけがえのないひととき。

歌集って、余白がたっぷりあるから好きだよ。

小説やエッセイも、読むひとはそのなかに自分の記憶を重ねたりするけれど、歌集をよんでいるとその余白をうめるように、過去のいろんな記憶を連れてきてもらえる気がする。

来年はもういちど、短歌と出会い直したい。

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