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パンと土佐犬

2023年3月14日

子と小競り合いをした。

その日は夕方から子の習いごとで、気が急いていたのもある。

習いごとへ向かう子と夫を送り出し、わたしは荒ぶる土佐犬みたいな気持ちをいかにかせん、と洗い物へ。

ごちゃごちゃと重なり合う鍋やフライパンを洗い、じゃこと米粒が飛び散った食卓をきれいにしていくうちに、ささくれだったわたしの心も少しずつ、整ってゆく。……なんて都合のいいことあるかと思いながら洗っていたけれど、実際その面はあるようだ。

パンでもこねるか。おとなしくなった土佐犬が言う。

小さいボウルを秤におき、牛乳と水、ドライの天然酵母をサーと入れる。

それが溶けるのを待つ間に、別の大きいボウルに、粉類をドサドサと。何度もつくっていまのところ、わたしなりに生み出したベストな配合。

ゴムベラでやさしく粉を混ぜおわると、仕込み水がいい塩梅になっている。それをざあと流し入れ、最初はそうっと、だんだん大胆にヘラを動かしてゆく。

オイルをたらしたら、最後は手で。

グーパンチで、ぐいっ、ぐいっ、と生地を押す。ときどき、ボウルに叩きつける。またこねる。

ぐっ、ぐっ、ペンッ! ぐっ、ぐっ、ぐっ。

はあ、今はこんなに、心穏やかなのになあ。

ぐっ、ぐっ。ぐっ。

生地を2つに分け、半分にはチーズを、もう半分にはレーズンを混ぜた。

どちらも子の好物。明日の朝、どっちが食べたいか選んでもらおう。

カリカリチーズに喜ぶ顔が浮かぶころには、土佐犬は姿を消している。

#600字エッセイ

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