子と小競り合いをした。
その日は夕方から子の習いごとで、気が急いていたのもある。
習いごとへ向かう子と夫を送り出し、わたしは荒ぶる土佐犬みたいな気持ちをいかにかせん、と洗い物へ。
ごちゃごちゃと重なり合う鍋やフライパンを洗い、じゃこと米粒が飛び散った食卓をきれいにしていくうちに、ささくれだったわたしの心も少しずつ、整ってゆく。……なんて都合のいいことあるかと思いながら洗っていたけれど、実際その面はあるようだ。
パンでもこねるか。おとなしくなった土佐犬が言う。
小さいボウルを秤におき、牛乳と水、ドライの天然酵母をサーと入れる。
それが溶けるのを待つ間に、別の大きいボウルに、粉類をドサドサと。何度もつくっていまのところ、わたしなりに生み出したベストな配合。
ゴムベラでやさしく粉を混ぜおわると、仕込み水がいい塩梅になっている。それをざあと流し入れ、最初はそうっと、だんだん大胆にヘラを動かしてゆく。
オイルをたらしたら、最後は手で。
グーパンチで、ぐいっ、ぐいっ、と生地を押す。ときどき、ボウルに叩きつける。またこねる。
ぐっ、ぐっ、ペンッ! ぐっ、ぐっ、ぐっ。
はあ、今はこんなに、心穏やかなのになあ。
ぐっ、ぐっ。ぐっ。
生地を2つに分け、半分にはチーズを、もう半分にはレーズンを混ぜた。
どちらも子の好物。明日の朝、どっちが食べたいか選んでもらおう。
カリカリチーズに喜ぶ顔が浮かぶころには、土佐犬は姿を消している。
#600字エッセイ